中国では早くもクルマ離れ!?「ナンバー取得75万円」政策が一因
ここ数年で急成長を遂げ、今や世界最大規模となった中国の自動車市場に陰りが見え始めた。
中国自動車工業協会の試算によると、今年の新車販売台数は前年比8%増の2000万台前後に達し、世界一をキープする見通しだが、一方で在庫のダブつきが問題となっているのだ。『環球時報』(7月27日付)によると、広東省のドイツ車ディーラーでは、新車の在庫期間が通常の2倍に延びており、在庫処分のため3割近く値引きせざるを得ない状況だという。
さらにはこんな逆転現象も。広東省東莞市在住のメーカー勤務・高島功夫さん(仮名・36歳)の話。
「社用車を探していて、新車と中古車それぞれのディーラーで見積もりを取ったら、1年落ちの中古車よりも同モデルの新車のほうが1割安かった。新車の営業マン曰く、販売台数は減ってるのに、メーカーから課せられる販売ノルマは厳しくなっていて、利益度外視の値引きをしているとか」
上海在住の旅行会社勤務・向井典明さん(仮名・38歳)によると、市場鈍化の一因は、これまでの急成長の反動だという。
「自動車の台数とともに急増したのが初心者ドライバー。おかげで都市部では事故渋滞をはじめとする交通混雑が常態化しています。また、市街地で駐車場を探すのは一苦労で、クルマは超不便な道具になりつつある。完全に金持ちの道楽ですよ。私も先日、新車で購入して3年乗った日本車を手放したんですが、中古車市場も不況とのことで数万円にしかならなかった」
こうした状況を改善するべく、各自治体ではナンバープレートの発行枚数を制限している。なかでも北京や上海、広州では、新車購入者は数の限られたナンバープレートを競売で落札するシステムで落札価格は高騰している。例えば上海市発行のナンバープレートの最低落札価格は約75万円にもなり、縁起がいいとされる「6」や「8」を含むものは、さらに高値がつく。「車体よりナンバープレートのほうが高い」という笑うに笑えない事態になっているのだ。
深圳市の不動産会社勤務・岡本宏大さん(仮名・25歳)によると、こうした政策は自動車市場の停滞どころか、不動産バブル崩壊の引き金になりつつあるという。
「2~3年前まで、公共交通機関の少ない郊外マンションを購入すると、自動車がプレゼントされるというキャンペーンが盛んに行われていました。しかし今や自動車が無料でもナンバープレート代が高く、キャンペーンは成り立たない。地下鉄網の整備やガソリン代高騰の要因も加わり、人々は『クルマを所持して郊外に住むより、交通の便利な市街地に住むほうが安くて便利』という考え方にシフトしている。郊外の新興住宅地では多くの物件が売れ残っていますよ」
中国在住のフリーライター・吉井透氏は、自動車に対する人民の考え方がかなり変わったと言う。
「経済発展が鈍化してきた今、『家とクルマがなければ結婚できない』といわれた時代は過ぎ、消費者は現実主義に目覚めている。維持費が平均で家計の4割にも達する自動車がまず切り捨てられるのは自然な流れ。中国に進出している日本車メーカーにとっても冬の時代になることは必至でしょう」
中国は、かつての“自転車時代”に逆戻りするのだろうか。 <取材・文/奥窪優木>
週刊SPA!連載 【中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
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