更新日:2013年04月17日 10:29
ライフ

「伝えるべきことは、法を犯しても撮れ」92歳の写真家・福島菊次郎氏が語る

福島菊次郎氏

できあがったばかりの写真集を何度も眺める福島氏。愛犬のロクとともに自宅にて

 原爆、安保、成田闘争、原発etc. 敗戦後からずっとこの国の「嘘」をテーマに撮り続けてきた反骨の写真家がいる。「日本はまた同じ過ちを犯すのではないか」と警告する福島菊次郎氏(92歳)に、「フォトジャーナリズムの現在」について聞いた。  *  *  *  *  *  *  *  今のフォトジャーナリストの多くは、何か事件や事故などが起きたときにパッと行って“カネになりそうな”写真を撮って終わり。また別の場所に行ってしまう。  生活のことを考えれば仕方がない部分もあると思いますが、ジャーナリストというのは物事を徹底的に追及して世の中に伝えるという、社会的責任のある職業。  例えばある家族を撮るにしても、手を上げて家に入り、靴を脱いで話せるだけの関係をつくらなければ見えてこないものがある。それはパッと行って撮る“道端写真家”にはできないことです。  日本の問題でちゃんと解決したものはまだ1つもない。僕が追い続けているテーマには、長いものでは半世紀にわたるものもあります。それだけ撮っても表現しきれない部分があると感じて、今度は文章も書くようになりました。 ⇒【画像】写真集『証言と遺言』より
https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=423168
柱島群島

かつて連合艦隊の秘密基地があった瀬戸内海の柱島群島。「名誉の家」の札がかかった家の中で、老婦人が一人息子の死を悲しみ、毎日線香をあげていた(写真集『証言と遺言』より)

 それから、ドキュメンタリーは文学と違って想像ではできません。どんなテーマであっても、現場に行って中に潜り込まなければ。そのためには綺麗事は言っていられない。「入れてくれない」というのは、ジャーナリストにとって言い訳になりません。また、「聞きにくいこと」も「言ったら怒るかもしれない」ことも相手にぶつけなければならない。取材する側は遠慮していてはいけないのです。  特に今のような政治状況では、格好のいい“意見”を言っていても何も変わらない。僕は「日本が隠し続けてきたものを引っ張り出して、叩きつけてやりたい」という思いで写真を撮っています。ある問題自体が法を犯していて、その状況を世の中に発表する必要があれば、そのためには自分自身が法を犯してでも撮るべきです。
安田講堂

安田講堂を占拠した、籠城前夜の全共闘集会(写真集『証言と遺言』より)

 現在の写真界は低迷していると思います。写真家も編集者も批評家も、ほめ合うばかりで批判するということがほとんどありません。土門拳が1950年代に「リアリズム写真」を提唱したとき、多くの批判を受けました。でも、このように言いたいことをズバズバ言い合える時代は、写真の高揚期だったともいえるでしょう。  批評というのは、3割だけほめて、あとの7割はけなすほうがいい。子どもを甘やかしてはいけないのと一緒で、ほめてばかりでは慢心するだけで成長しません。どの業界でも同じだと思いますが、厳しく批判することでその作家自身も伸びていきます。ぜひ、僕のこともどんどん批判してほしい。それが僕自身の勉強にもなるし、ワンパターン・惰性的にならずに撮り続ける原動力にもなるのですから。 <取材・文/北村土龍> 【福島菊次郎】
証言と遺言

福島氏の最新写真集『証言と遺言』(DAYS JAPAN)

1921年、山口県下松市生まれ。敗戦直後の広島で、被爆者家族を10年にわたって撮り続けた作品『ピカドン ある原爆被災者の記録』で日本写真評論家賞特別賞を受賞。その後上京して「文藝春秋」などに寄稿。その後、瀬戸内海の無人島生活を経て現在は山口県柳井市に在住。“ニッポンの嘘”をテーマに写真を撮り続けている。今年3月に写真集『証言と遺言』(DAYS JAPAN)を上梓した ⇒『証言と遺言』の注文はこちらから
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※福島菊次郎氏の仕事を追ったドキュメンタリー映画「ニッポンの嘘」も全国各地で上映会を開催中(4/20山口県柳井市など)。詳しくはFacebookの映画公式ページにて。http://www.facebook.com/Nipponnouso
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