スポーツ

プロ野球が開催された福島で見た被災地のリアル【俺の夜番外編】

自衛隊車両

野球場の横には自衛隊車両とテレビ中継車が混在していた

 プロ野球というイベント会場の真横には、今も500人が避難生活を続ける、避難所がーー去る7月29日、福島県福島市の県営あづま球場で行われた「ヤクルト×巨人」戦を見に行った。その際目に飛び込んできた光景は、被災地の今を浮き彫りにした。  本誌8/16・23合併号「俺の夜」で福島市の繁華街の様子をご紹介したが、誌面では書ききれなかったもうひとつの「俺の夜」をお伝えしたい。 福島でプロ野球が行われる。そう聞いた時、いち野球ファンとして、「見届けなければ」と思った。ここに至るまで様々な困難があったと思われる、福島でのプロ野球開催。地元の人はどんな気持ちで球場に向かうのだろう。 試合のチケットも持たぬまま、着の身着のまま新幹線に飛び乗り、福島入りしたのだが、どんよりとした曇り空に正直気分が重くなった。その日の夜の天気予報は「雨」。事実、この日の午前中はしとしとと雨が降り続いていたという。 実は、編集部にある簡易放射線測定器を持参したのだが、東京で測った数値よりは7~10倍の高い数値を刻んでいた。雨が降ればこの数値は上がると予想される。この日、被災地支援の人や被災者で宿泊施設はどこも満室ということだった。最悪「野宿」も覚悟する。 球場への行き方を尋ねるついで、地元の人にそんな不安を口にすると「え!? 東京からきたの? 雨が降ったら野球どころじゃないよ。万が一雨に濡れたら風呂に入んなさいよ!」と冗談半分で言われてしまう。”万が一”を考え、雨合羽を買い求めるため駅前の100円ショップに入ると、「ずっと品薄で……サイズあるかな」と店員は顔を曇らせた。しかし運良く、ラスト1着の雨合羽をゲットできた。 市内から車で20分ほどかかるあづま運動公園にはタクシーで向かうことに。運転手に2年前にあった同カードのことを尋ねると「巨人戦がある時は、いっつも車で大渋滞なんだけど、今日は空いてるね~」と笑う。 携帯端末であづま運動公園のホームページを検索すると、1週間前に、公園内の27箇所で計測された放射線測定値が発表されていた。数日前までこの球場で行われていた、高校野球の福島県予選では、早朝に放射線量を測り、国の屋外活動制限の暫定基準である「毎時3.8マイクロシーベルト」を超えれば、試合を中止する対策がとられていたと運転手が補足してくれる。 公園入り口でタクシーを降り、徒歩で球場に向かう。すると、目に飛び込んできたのは、テレビの中継車両に混じって散見される自衛隊の車両。奥の方を見るとカーキ色の巨大なテントも設営されている。警備員に尋ねると、「野球場の奥の体育館が避難所になってるからね。テント? それは避難者のお風呂なんだよ」 球場に向かう道の動線が制限され、不自由に思っていたのだが、ここは球場であると同時に避難所でもあったのだ。避難者にとっては生活の場所、イベント客が流入しないよう、制限エリアがしっかりと設けられていたのだ。聞けば、ここあづま運動公園は福島市内で最大の避難所で、今なお500人余りが避難生活を送っているという。

スタンドにはマスク姿の小学生がちらほら見られた

スタンドに入り座席に着くと、目の前には家族連れが。小学生くらいの女のコは真夏だというのにマスクをしている。スタンドを見渡すとやはりマスク姿の小学生がちらほら見られる。家族連れのお母さんに聞いてみると「強制ではないが、学校から、屋外に出る時はマスク着用を奨められている」とのこと。「でも、暑いでしょ。だからすぐに取っちゃうのよ」とも。すると女のコは”暑い”と顔をしかめながらマスクを外し、アゴに引っかけていた。 プレイボールの時間には雲が切れ、青みがかった空がのぞいてきた。隣の体育館に避難している人が招待されており、始球式には一時避難地域のリトルリーグの子供たちが守備位置につくと紹介されていた。手作りのおつまみとビールを売っていた女のコの売り子は、「今夜は雨も降らないみたいだし、それとなにより福島でプロ野球ができるなんて思わなかったから、本当に良かった」と安堵の表情をのぞかせた。 試合は行き詰まる投手戦。いつのまにかスタンドは人で埋まり、選手の一挙手一投足に拍手が湧いていた。来年もまたここでプロ野球が開催されることを祈らざるを得なかった。
繁盛する売店

スタンド下には売店が出て「お祭り」のような雰囲気。地元野菜の漬け物が旨かった

残念ながら例年のように満員とはならなかったが、来年も福島でのプロ野球開催を期待したい

取材・文・撮影/苫米地
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