雑学

東北被災地の高校生に演劇レッスンをして感じた、一人一人違う“震災”/鴻上尚史

― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

大船渡

大船渡 2011/8/19(撮影/live73 flickrより)

被災地の高校生に芝居のアドバイス。一人一人違う“震災”


 NHKのEテレの企画で、『未来塾』というものに出演して来ました。東日本大震災の復興プロジェクトの番組です。

 最初「東北の若者と演劇を創って、被災地で上演して、みんなを元気にしてくれませんか」と言われたので、「それは無理です」と答えました。

「元気にする」ということが目的なら、不可能です。芝居を見て、元気になる人もいるかもしれませんが、落ち込む人もいるかもしれません。

 間違いなく元気にする作品が書けるなんて言い切れるほど、僕は能天気ではありません。

「それでは、とにかく震災をテーマに被災地の人に見せる作品を創っていただけませんか?」と言われたので、「一か月という短い時間では無理です」と答えました。

 僕は震災をテーマに一度だけ作品を創りました。『キフシャム国の冒険』という演劇です。ただし、この時も「演劇で被災した人を癒すことはできない。慰めることもできないかもしれない。ただ、演劇を見ている2時間、せめて悲しいことを忘れられる作品にしたい」とインタビューなどで答えました。

 7年前の3月11日、僕は東京の水天宮にいて、芝居の稽古をしていました。そんな僕が、被災地の人に向かって芝居を創るのは、簡単なことではありません。番組の企画では、被災地での発表まで一か月ほどしかありませんでした。自分になにができるのかを自分自身に問いつめ、探り、表現するには短すぎる時間です。

「じゃあ、何ができますか?」とさらに聞かれたので「被災地で芝居を創っている人がいたとしたら、その芝居の内容がより人々に伝わるために、演出上のアドバイスはできます。僕はプロの演出家ですから」と答えました。

 番組スタッフがリサーチすると、大船渡高校の演劇部の顧問の多田知恵子先生が震災をテーマに作品を書かれていました。

 その戯曲を読んで、アドバイスをさせてもらうことにしました。演劇部の高校生達とも何回か会いました。

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必要なのは、リアルな想像力

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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録





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