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性転換した大学講師の“カミングイン思想”「まずは思い込むことが大事」

―[山田ゴメス]―
「カミングアウト」という言葉が市民権を得て、ちまたで頻繁に耳にする機会も増えてきたりしているが、元々はゲイやレズビアンといった “セクシャルマイノリティ”な人たちのあいだで使われていた“隠語”のようなもの。そして今、“ソッチの世界”では「カミングイン」なる言葉も流通し始めているらしい。そして今、“ソッチの世界”では「カミングイン」なる言葉も流通し始めているらしい。闇雲にカミングアウトするのではなく、受け入れられる下地づくりをしながら社会に“溶け込む”という考え方。その提唱者である、“性転換した大学講師”吉井奈々さんに詳しいお話を聞いてみた! ⇒【前編】「カミングアウト」とは、なにがどう違う? ――“カミングイン”思想というのは、セクシャルの問題だけじゃなく、転職だとか、いろんな世界でも応用できそうですね。でも、言うのは簡単だけど、イザ実践しようとすれば、なかなか難しそうでもある……? 吉井:最初は偽りでもかまわない。なかなか人間、そこまで聖人的な考えなんてできないですからね。でも、それを演じ続けているあいだに、身体に染みこんでいく……。まずは“思い込むこと”が大事なんです。それが努力だと私は思います。数十年も生きてきて、築き上げてきたプライドって、そう簡単に捨てられるものじゃないですから。 ――“カミングイン”の風潮は、全世界的な流れだったりするのでしょうか?

吉井奈々さん

吉井:どうなんでしょう? 元来日本人って、異種なモノを受け入れることが苦手な人種じゃないですか。島国で、200年以上も鎖国なんてやっていた国だし。なので、アメリカあたりの、いろんな国籍の方がいる国だと、きちんと言うべきことは言う“カミングアウト方式”のほうがしっくりくるのかもしれません。ただ、“カミングアウトをする”ということは、自己を主張するというコトでしょ。そうするとそれだけのことも同時に求められるということを皆さん、案外わかっていない。ちなみに私は昔、ドラァグクィーンをやっていたことがあるんですけど、そういう派手なことをやっていたら、他のオカマちゃんと比べても、よりハードルが上がっちゃうんですよ。「普通の人より面白いこと言ってくれるんじゃないか」ではなく、「普通の人より“無茶苦茶”面白いこと言ってくれるんじゃないか」になっちゃう。これって、けっこう疲れますよ。きれい事を抜きに言わせてもらうと、私は、最終的に自分がラクするために“カミングイン”を心がけているんです。 ――吉井さんの、そういう物の考え方は、どのように培われてきたのでしょう? 吉井:16歳のころから働いていた地元近くのオカマバーのママから、「自分たちがオカマであることをお客さまに押しつけてはダメ!」「私たちは女性より女らしく、男性より男らしく、その上でオカマらしく、さらに人間らしくなければ、ノンケさんに愛される素敵なオカマにはなれないのよ!」と、たたき込まれてきましたので……。おそらく、その影響が強いのではないでしょうか? ――わかりました! たくさんのいい話をありがとうございます。では最後に。“カミングイン”の極意とは? 吉井:女性として社会に溶け込んでいながら、じつは自分が元男だということが、もしバレちゃったとしても、相手が「でもさ、コイツは元男かもしれないけど良いヤツじゃん。元男とかそういうの関係ないよね」と言ってもらえるようになること。そうなって、はじめて“カミングインできた”とってことになる。 “バレる”ということにビクビクしながら社会に溶け込んでいても意味はないんです。なぜなら、私たちは“隠している”のではなく、単に“自分からは、とくに言わない”だけなのですから。バレてもその問題以上の良い関係ができていれば大丈夫。ウエンツ瑛士さんなんかも、とくに自分が日本人じゃないことを隠しているわけじゃなく、「アンタ、ドイツ人なの?」と聞かれたら、「そうなんですよ~。でも日本語しかしゃべれませ~ん」と、明るく切り返せるでしょうし、そんなコトを気にさせないくらいみんなから愛されていますよね。とにかく、“溶け込むこと”と“隠すこと”はまったく別物であることを肝に銘じるべきよ。 ――普通のビジネス書とかに載っていてもおかしくないお話ですね。 吉井:ビジネスの世界でも、「営業は商品ではなく自分という人間を売れ」と言うじゃないですか。目的(商品)をお客様に買ってもらいたいなら、まず自分の人間性や信頼を買ってもらわないといけない。私たちセクシャルマイノリティも同様に、目的(カミングアウト)を果たすためには自分の人間性を受け入れてもらう“カミングイン”が大事なんですね。 【吉井奈々】 ’81年神奈川県出身。小4のころ、とある男子に渡したバレンタインチョコを、「気持ち悪い!」と目の前でゴミ箱に捨てられたときから、「私、このままじゃダメなんだな……」と実感し、小学校を卒業した春休みに、はじめて新宿二丁目へと足を運ぶ。中学校を卒業してすぐ、家を出て本格的に水商売の道に入り、ホストクラブやキャバクラ、オカマバーなどでキャリアを積む。2005年に戸籍を女性に変え(トランスセクシャルの世界では「戸籍を戻す」という表現をする)、2010年にヘテロセクシャルである中学時代の同級生と入籍。現在は目白大学をはじめとする、いろんな大学で特別講師として教鞭を取る。オフィシャルブログ:http://ameblo.jp/xoxo-nana-xoxo/ 【山田ゴメス】 1962年大阪府生まれ。マルチライター。エロからファッション、音楽&美術評論まで幅広く精通。西紋啓詞名義でイラストレーターとしても活躍。日刊SPA!ではブログ「50にして未だ不惑に到らず!」(https://nikkan-spa.jp/gomesu)も配信中。現在「解決!ナイナイアンサー」(日本テレビ系列)に“クセ者相談員”として出演。『クレヨンしんちゃん たのしいお仕事図鑑』(双葉社)も好評発売中!
―[山田ゴメス]―
大阪府生まれ。年齢非公開。関西大学経済学部卒業後、大手画材屋勤務を経てフリーランスに。エロからファッション・学年誌・音楽&美術評論・人工衛星・AI、さらには漫画原作…まで、記名・無記名、紙・ネットを問わず、偏った幅広さを持ち味としながら、草野球をこよなく愛し、年間80試合以上に出場するライター兼コラムニスト&イラストレーターであり、「ネットニュースパトローラー(NNP)」の肩書きも併せ持つ。『「モテ」と「非モテ」の脳科学~おじさんの恋はなぜ報われないのか~』(ワニブックスPLUS新書)ほか、著書は覆面のものを含めると50冊を超える。保有資格は「HSP(ハイリー・センシテブ・パーソンズ)カウンセラー」「温泉マイスター」「合コンマスター」など
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