中国メディア記者、モラル低下でマルクス主義研修実施
中国のメディア監督機関である国家広電総局は、今月から年末にかけ、全国のメディアの記者25万人に、マルクス主義などを学ぶ研修を実施すると発表。また、来年1月から2月にかけ、研修内容を踏まえた統一の免許更新試験を実施する予定で、記者の国家試験制度のある中国では、この試験に合格しなければ活動を続けられなくなる。
マスコミの言論統制を強めようとする、共産党中央の不穏な意図も感じられるが、今回の措置は「記者のモラル低下を食い止めるため」と指摘するのは、中国大手ポータルサイト『新浪』の東京特派員・蔡成平氏だ。
蔡氏が質の低下の象徴として挙げるのが「黒記者」の存在だ。取材によって知り得た事実をもとに、企業や個人を脅迫して金品を要求する記者が増えているという。
『人民網』(5月20日付)によると、’11年7月~’13年2月までの間で、江蘇省や浙江省などで、立ち退き問題や環境問題のスキャンダル十数件をネタに企業をゆすっていた6人組の記者グループが逮捕された。記者らは計160万円の現金と物品を受け取っていたという。リーダー格の男は中央政府が交付した正規の記者証を所持していたというが、正体はジャーナリストとは無縁な、ショッピング情報誌の記者だったという。
過去には’08年でも、山西省の炭坑で労働者の死亡事故が発生した際、炭坑主が複数の記者に口止め料を支払い、事故を隠蔽していた例もあるのだ。
広州市郊外で日本料理店を経営する松田尚さん(仮名・42歳)も、ゆすり、たかりを行う記者に出くわしたことがある。
「飲食店をやっていると、地元大手紙の名刺を出して『取材させてくれ』と言ってくる記者がいますが、全部タダ飯目当て。記者の“同僚”を連れて5~6人で来ることもある。門前払いすると『酷評してやる』と捨て台詞を吐いて帰る輩もいますよ」
一方、口卑しい記者たちに、日本の税金も食い物にされていると話すのは、上海市のPR会社勤務・吉田亨さん(仮名・43歳)だ。
「日本の地方自治体は、観光誘致や特産品PRのために、アゴアシ付きで地元メディアを招待していますが、強欲の無能記者の胃袋を満たすだけ。まったくの無駄です。地方紙なら20万円くらいで提灯記事を書いてもらえるので、そのほうが安上がりです」
また、本物の取材の現場においても、記者たちの質の劣化は止まらない。9月27日、湖北省武漢市で行われた中国版アカデミー賞とも言われる「金鶏百花電影節」の会場で、人気映画の主演女優が登場した直後、場所取りをめぐって記者の間でトラブルが発生。女優そっちのけの乱闘が繰り広げられたという(『新浪網』)。
ちなみに、この記者証だが、フリーライターの吉井透氏によれば、「カネとコネさえあれば買うことができる」という。
「現場取材から退いた記者が売りに出すんです。もともとは記者証が発行されないフリーのジャーナリストが利用していたようですが、プロスポーツの試合や映画祭などにもうまく潜り込めるので、選手やタレントを間近に見たい富裕層にも需要があるようです」
こうした記者の惨状を見れば、今回の当局の措置も一理ある? <取材・文/奥窪優木>
週刊SPA!連載 【中華人民毒報】
行くのはコワいけど覗き見したい――驚愕情報を現地から即出し1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売
『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』 詐欺師や反社、悪事に手を染めた一般人まで群がっていた |
『中華バカ事件簿』 激動の現代中国社会をイッキに覗き見!中国実話120選 |
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ