更新日:2014年01月25日 09:08
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【電王戦リベンジマッチ観戦記】プロ棋士に同じ技は2度通じない!?

―[電王戦リベンジ]―
 2013年12月31日の大晦日。東京・原宿のニコニコ本社にて、将棋のプロ棋士とコンピュータ将棋ソフトが対決する『電王戦リベンジマッチ』が開催され、ニコニコ生放送にて生中継された。
船江五段の初手は▲7六歩

船江五段の初手は▲7六歩

 この『電王戦リベンジマッチ』は、昨年3月から4月にかけて行われた『第2回 将棋電王戦』第3局・船江恒平五段×ツツカナ戦の再戦となる。前局で惜しくも敗れた船江五段にとっては、文字通りの「リベンジマッチ」であり、負けられない一戦であった。  この日、筆者が最も注目していたのは、ツツカナが前回指した「△7四歩」を指すかどうかだった。というのも、この『電王戦リベンジマッチ』で使用されていたツツカナは、ソフトもハードウェアも、前回の対局と同じものが使われるという事前情報があったからだ。 ⇒【将棋電王戦第3局観戦記】コンピュータの4手目「△7四歩」の意味は?
https://nikkan-spa.jp/420790
 はたせるかな、ツツカナは4手目にその「△7四歩」を指してきた。船江五段も予想していたのか、ほとんど時間を使わず、これに応じていく。こうして午前中は、どちらも前局とまったく同じ指し手で30数手ほど進んでいった。
4手目「△7四歩」の直後、船江五段は目を伏せて何かを思い出すようなそぶりを見せていた

4手目「△7四歩」の直後、船江五段は目を伏せて何かを思い出すようなそぶりを見せていた

 この「△7四歩」については前局の観戦記でも詳しく説明しているが、いわゆる将棋の定跡の手ではない。悪手とまでは言えないが、奇襲に近い作戦だ。前局では、船江五段の研究にハマってしまうことを危惧した開発者・一丸貴則氏が、どちらも力が出せるいい勝負になるようにと手動で追加設定したのだが(※)、その設定までそのまま本局のツツカナに残っていたことになる。 ※当時の一丸氏は、船江五段が「△7四歩」の将棋を師匠である井上慶太九段が指していて知っていることも見越しており、完全な奇襲にはならないことが、双方にとってフェアな勝負になるのではないかと考えて設定した旨を、のちのインタビュー等で語っている。  しかし、本局の船江五段は、前局とはことなり本番とまったく同じバージョンのツツカナの貸与を受けている。したがって練習や研究も十分のはず。ということは、この「△7四歩」は奇襲として成立しなくなる。この時点で『電王戦リベンジマッチ』は、船江五段がどこまで研究しているのか、そしてその研究がツツカナを上回るのか、ということが争点となったのだ。 「聖闘士には同じ技は2度も通じぬ」というのはマンガ『聖闘士星矢』の有名なセリフだが、プロ棋士にも、これとほぼ同じことが言える。本局については、すでにネット上でもさまざまなことが書かれているが、プロ棋士の強さをよく知っている将棋ファンほど、この時点ですでに勝負としては面白くないとする意見が散見された。  正直なところ、筆者もそうした意見に同調するところがまったくないわけでもないのだが、そのときはまだ、どの程度が船江五段の研究通りなのか、はたまた一丸氏の想定通りなのかはわからない。人間のプロ同士の対局でも、かなりの手数まで前例通りの進行になることはよくあることだ。ただし、ツツカナは人間ではないので感情移入がしにくく「あえて前例通りにしているのかも?」という盤外の読み合いを想像する楽しみが少ない、ということは言えるかもしれない。  また、当たり前のことだが、ツツカナは昔のファミコンの将棋ソフトのように、前とまったく同じ形なら必ず同じ手を指してくる、というほど単純なしくみにはなっていない。同じくらいの評価値の手が複数あれば、ランダムで手を選ぶようになっているはず。実際に、一丸氏は局後このように発言している。 「どこかで前例から外れると考えていたので今回のルールで問題ないかなと思っていたんですが、結構前回と同じように進んでしまいました(苦笑)」(ツツカナ開発者・一丸氏)  一方で、船江五段は「△7四歩」以下の進行に誘導するか、少し迷いもあった模様。また、すべてが思い通りというわけでもなかったようだ。
38手目△5六銀の局面図

38手目△5六銀の局面図。:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より

「今回のルールでは自分が選べるというのもあって、ほかの戦型にしようかと思ったこともあったんですが、前回の反省を活かせると思ってこの形にしました。ツツカナと同じ形で10局ちょっとくらい指して(△7四歩以降)別の進行になる確率も6割くらいあったので、むしろそちら(経験がない別の進行)を重点的に準備していました」(船江五段)  自分が勝ちやすい「△7四歩」の展開を避ける選択肢もあったわけだが、この負けられないリベンジ戦であえてそうする意味はない。また前局の船江五段は敗れたとはいえ、途中までは有利な展開だった。つまり船江五段は前局とまったく同じ展開で進むなら自信がある。そこで、ツツカナが手を変えてきた場合のことを考えていたというわけだ。  そして38手目△5六銀。先に手を変えたのは、やはりツツカナの方だった。はたしてこれは船江五段が研究していた手なのだろうか? ⇒『リベンジ達成!? そして「第3回」へ…』に続く
https://nikkan-spa.jp/573920
◆電王戦リベンジマッチ | ニコニコ動画 http://ex.nicovideo.jp/denou/revenge/ ◆電王戦 棋譜 [第2回電王戦] 第3局 船江恒平 五段 vs ツツカナ http://seiga.nicovideo.jp/watch/mg56929 <取材・文・撮影/坂本寛>
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