東日本大震災で「罪を犯した者たち」の素顔とは?
2014年3月11日で、あの未曾有の大災害から3年が経とうとしている。津波で家を流され、多くの尊い命が失われ、それでも懸命に生きようとする人たち。しかし、残念ながら、その中で、震災時特有の犯罪が多数横行したことをご存知だろうか?
震災裁判傍聴記~3.11で罪を犯したバカヤローたち」を上梓した長嶺超輝氏は、こう話す。
「震災犯罪の法廷取材をしていて感じたのは、通常の裁判よりも激しい表現の非難が飛び交っていたことです。“人間として絶対にやってはいけない行為”“人として許されない行為”とか。確かに、人の不幸、混乱に乗じた犯罪は許される者ではない。しかし、傍聴を続けていくと、簡単に断罪できない複雑な人間模様が存在するような気がするんです」
例えば、福島第一原発の警戒区域内に残されたペットを救出するために、通行証を偽造した親子。罪を犯したことは悪い。しかし、そうせざるを得なかった事情も垣間見える。そんな傍聴でのやり取りを「震災裁判傍聴記~3.11で罪を犯したバカヤローたち」から抜粋してみよう。
――― 以下、本より抜粋 ―――
~通行証を偽造した被告人質問にて~
「オフサイトセンターからは、『飼い主のわからない動物を保護するな。保護したら窃盗罪になる』と忠告されていました。警察は、ジャーナリストと動物愛護者は、絶対に警戒区域に入れるなと息巻いていたようで、苦労しました。無益な対立が増えていたんです」
弁護士の質問に対して、答える被告人。裁判官と検察官と弁護人に囲まれて裁かれている立場だが、法廷の雰囲気に呑まれないよう、ギリギリのところで自分の立ち位置を保持しようとしている。
「避難所を転々として飼い主を捜し続けました。夫婦ゲンカも絶えませんでしたよ。犬や猫を被災地からたくさん持ち帰ってきたんですから。でも、家の雰囲気が明るくなって、生きる力も湧いてきて、レスキューをやって間違いではなかったなと、今では思います。誰を恨むつもりもありません」
堂々とした態度に対して、検察官が責め立てる。
――警戒区域の犬や猫を助けるためには、通行証の偽造しか方法はなかったですか?
「それが最善の方法と思ってました。警察官が私たちを先回りしてたり、泥棒扱いしてきたりして腹が立ちました」
――あなたたちのやったことは、誰も止めなかったんですか?
「やったことは間違っていなかったと思います」
――あなたの主観は置いておいて、誰かが止めたのかどうかを訊いています。
「でも、警察はわれわれの動きを知っていたんでしょ」
――私の質問に答えてください。
「やむを得ないとは言いませんが、自分では恥ずべきことをしたとは思ってません。そこに誰かが倒れていれば、それを助ける。人間として当たり前です」
――ええ。
「だいたい……私以外にも、偽造をしていた人はいます」
――では、みんながやっていたから、あなたもやったと、そういうことですか?
「そんなことはないです。人は人です。じゃあ、どうすればよかったんですか」
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結果、この被告人には執行猶予つき1年6か月~2年、罰金10万円が課せられることになる。
「震災犯罪は、通常時では罪を犯さないような人たちが行動を起こしてしまうケースも散見されました。もちろん、震災を食い物にした大バカ者もいます。そうした人間模様、彼らの素顔を知ることで、得られる教訓もあると思うんです」(前出・長嶺氏)
ほかにも石巻のニセ医者ボランティア、復興予算を搾取した臨時公務員、詐欺行為を犯してしまった原発職員など、震災に関する裁判傍聴を18例も収録しているという「震災裁判傍聴記~3.11で罪を犯したバカヤローたち」。決して忘れてはいけない、東日本大震災のもう一つの側面を垣間見ることができるはずだ。
<取材・文/日刊SPA!取材班 Photo by Official U.S. Navy Imagery>
よく知られているのは、義捐金詐欺や、津波や原発事故の影響で無人となった家屋への侵入盗などであろう。しかし、実際にはそれだけではない。震災犯罪に関する裁判を3年間傍聴し続け、このたび「
『震災裁判傍聴記~3.11で罪を犯したバカヤローたち』 マスコミが報じなかった東日本大震災の舞台裏。18の事件を収録。あれから3年。裁判が描く震災犯罪者の人間模様 |
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