観客はおっさん1人。27時間テレビの裏で開催された「28時間お笑いライブ」
7月27日(土)から28日(日)にかけて放送された「SMAP×FNS 27時間テレビ」。平均視聴率13.1%、瞬間最高23.8%という高視聴率の裏で、最後までいた観客が“49歳・男性1人”という物悲しい「28時間お笑いライブ」が開催されていた。
場所は中野Vスタジオ。マンションの地下1階、キャパ30人の小さな会場に、5組9人のお笑い芸人が佇んでいた。開始時点の観客は2人。1人は佐賀からこのライブのためだけに夜行バスでやってきたという49歳の男性。もう1人は若い女性で、主催コンビ・ガロインのライブをたまに観に来ているらしい。キャッキャと笑う姿が印象的だ。
まずはトーク・コーナーからスタート。舞台上の芸人、だれも喋らない。観客2人もとくに笑うでもなくシラケるでもなく、記者だけが居た堪れなくて挙動不審にメモを取る振りをするなど、なんとも言えない空気が漂った。
主催コンビの二人は、「一応、進行しなければならない」という気持ちがあったのか、時折トーク・テーマをポツリとつぶやいた。まず「合法ドラッグ」をテーマにトークが繰り広げられたのだが、とてもではないが書ける内容ではないため、割愛させていただく。他のテーマも、割愛させていただく。やたらと蚊が飛んでいて、出演者のだれだかが蚊を必死で追いかけていたことだけ書いておこうと思う。
「今後どうしていきたいか?」というテーマになり、出演者の別のだれだかが、「プリンをたくさん食べたい」と答えた。活字にするとあたかもベタなボケのように聞こえるが、その場にいた者としては、(この人は本当に今後、たくさんのプリンを食べたいだけなんだな……)というニュアンスに聞こえたため、背筋が凍った。(ホンマモンじゃないか……)
以上が、28時間ライブのレポートである。実質15分しか観覧しなかったため、以上である。手を抜いたわけではない。(これは記事にできない……)、(シャレにならない……)、何より(これ以上、この場に居たくない……)と心が折れたため、早々に会場を後にしたのだ。
「カルト芸人」と呼ばれる芸人たちがいる。鳥居みゆき、永野など、一見、ヤバい感じのネタをする芸人のことだ。しかし彼らはあくまで“ヤバい感じ”がするだけであって、ネタはおそらく練りに練っているし、取材をすればまともな返答が返ってくる。楽屋に挨拶に行けば、だれよりも丁寧な90度のお辞儀をしてくれる。
記者はこの日、真のカルト芸人を見た。否、“カルト”を見た。そして最初から最後まで、28時間このライブを見守ったという男性にTwitterでコンタクトを取ることに成功した。
49歳の彼は、ライブ当日、夜行バスで佐賀からやってきた。出演者と交流があったわけでもなく、ただただこのライブを28時間観るためだけに佐賀からやってきた。主催コンビ・ガロインの薗田曰く、「お笑いが好きっぽい」。“お笑いが好きっぽい”だけで佐賀から中野までやってきて翌日また夜行バスで帰っていった彼の、ライブ後のツイートを引用する。
「○○くん(※芸人)の、幼児体系と包茎っぷりに私はほほえましさを禁じえなかった。◯◯、咲ちゃんに振られても落ち込むな。爆発的ネタを作って、ファンの女子をとりこにして幸せになるんだ!(しかし,二重まぶたを直したのになぜ包茎を直さないのか)」
まったくもって意味が分からないが、こんなツイートもしている。
「□□くん(※別の芸人)の歌、なんだかフランスの世紀末の風俗業界で働く女たちを歌い上げたロートレックの絵が浮かんでくるような不思議な歌。メジャーコードの響きが印象的な『ささくれ』という名前の女の歌が好き」
“ライブ中に、芸人のだれかが歌を歌ったんだな”ということだけは、かろうじて分かる。ちょっと聴いてみたかった気がしないでもないので、15分で逃げ帰ってしまったことが少々、悔やまれる。
視聴率に換算すると、0.00000000000000000000000000000001%という28時間ライブだが、たった一人の佐賀県民(49歳・男性)の心に深い感動を刻み込むことが出来たのなら、それはそれで成功だったと言えなくもない……か。 <取材・文/尾崎ムギ子>
尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko
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