まんだらけの「モザイク外し騒動」は結果的に成功!?
不祥事を起こした際、重要なのはその後いかに事態を収束させるかだ。そんな「不祥事・危機対応」に関して、多くの企業などから相談を受ける長谷川裕雅弁護士が、世間を騒がすスキャンダルの数々を「危機対応力」という面から読み解く――。
【第五回 まんだらけの顔写真公開騒動】
まんだらけが、25万円相当の玩具を盗んだ万引き犯の顔写真をモザイク付で公開し、期限内に返還しない場合にはモザイクを外す旨の告知をしていました。捜査への支障を理由にした警視庁からの自粛要請にも拘らず、強硬姿勢を見せていましたが、期限内に返還はされなかったもののモザイクは外されず。「警視庁の要請により顔写真の全面公開は中止」の結論は、公安委員会の監督を受ける古物商の立場も影響してのことでしょうか。
告知をした時点で専門家からは、脅迫罪の成立や民事刑事両面の名誉棄損の可能性などを指摘する声が多数ありました。識者からも自重を求める論調が大部分で、店を支持する声はほとんどなかった。
被害者に自重を求める法的考えの根本は、「自力救済の禁止」です。被害者といえども司法手続きを経ずに権利を回復してはいけないという原則です。「力こそ正義」を避けるためと言われています。
窃盗犯人からの奪い返しが違法というと意外でしょうが、「家賃未払いに対する追い出し屋は悪」といっても違和感はないでしょう。法律上、モザイク外しはNGなのです。それでも当初は強硬姿勢を崩さなかった店ですが、モザイク外しにこだわった理由はなんでしょうか?
「制裁を加えることで溜飲は下がる」
「犯人の特定と、新たな万引き犯に対する威嚇効果が期待できる」
「盗品が転売されれば追跡は困難で、警察に任せても早期解決は不可能」
「窃盗の被害者だけに、脅迫などの容疑者として刑事訴追はされにくい」
「万引き犯から民事で訴えられる可能性は低く、判決で出る慰謝料も高額ではない」
そんな理由が考えられますが、いいことずくめでリスクは低いのです。
一方で、悪評リスクはどうでしょうか。一般ネットユーザーは、少なくとも一方的に店主を責めてはいません。某意識調査によると、モザイクを外す措置を妥当とする声が9割以上。「8~9割が賛成」とする店の発表とも一致します。パンと見世物を求める風潮を考慮しても、識者と一般人の見解はかなり乖離しています。市民感情が司法に反映されていない旨は、店の広報も指摘するところです。
もちろん遵法精神の高い方は、モザイクを外した店を支持しなかったでしょう。しかし、アンティーク玩具というニッチ市場においては、嫌われるリスクを回避するよりも、根強いファンを獲得することこそが、正しいマーケティングです。
意見が分かれる問題については、思い切ってやってみることで少なくとも半数の支持は得られます。結果、法的リスク度外視の蛮勇が報われることになります。店名が全国ニュースで何度も流されることで、少なくとも宣伝効果は絶大でした。
ただ、「やったもの勝ち」の結論には、法律家として違和感を覚えます。「名誉棄損になったとしても、不倫の事実は奥さんにバラす」と開き直る交渉相手が、恐喝的手段で法外な解決金を手にする事件もある。慰謝料の額など知れていて、抑止力にはならないからです。市民感情と司法の完全な融和はそもそも不可能。「北斗の拳」のような世界にしないためには、違法行為が割に合わない社会にするしかないのです。 <文/長谷川裕雅 構成/日刊SPA!取材班>
■長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)■
東京弁護士法律事務所代表。朝日新聞記者を経て弁護士に転身。現在は政治家や芸能人のマスコミ対策を想定した不祥事・危機対応や、相続問題などにも取り組む。著書に『磯野家の相続』(すばる舎)、『なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?』(プレジデント社)

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