早大の小保方氏への処分は「意図的な時間稼ぎ」か?
不祥事を起こした際、重要なのはその後いかに事態を収束させるかだ。そんな「不祥事・危機対応」に関して、多くの企業などから相談を受ける長谷川裕雅弁護士が、世間を騒がすスキャンダルの数々を「危機対応力」という面から読み解く――。
【第八回 小保方氏の博士号取り消し問題】
論文不正が問題になった小保方氏の博士号の学位を、早稲田大学が条件付きで「取り消し」にした件。約1年の猶予期間内に論文を再提出する機会を与え、審査に合格すれば学位を維持するとしています。これを受けて、学位について「維持へ」と報じる媒体もありました。再教育や倫理指導はともかく、論文については訂正で済むようです。ブログや第三者委員会での指摘で修正点や修正内容が明らかになっている以上、訂正後の審査には落ちようがなく、カンニングを許すようなものであるという指摘もあります。
なぜシンプルに、白黒を今すぐ明確にできないのでしょうか。「指導・審査過程の不備」が理由とされていますが、同じ条件で締め切りを設定して審査されたほかの学生との扱いの差を合理的に説明できていません。
論文の不正を認めつつも、博士号を取り消さないとした第三者委員会に対して、世間の風当たりは強いものがありましたし、学内からも取り消すべきとする意見が出ています。質の低い論文に対して博士号を授与したことは、第三者委員会も断罪済み。学府としてのメンツを保つには、博士号を確定的に取り消すのが筋でした。
それなのにこの対応になった理由はなにか? 1つの仮説は、小保方氏から訴えられるリスクを避けたから、というものです(そもそも、学位取り消しに対して裁判で訴えることができるかどうかは、議論の余地がありますが)。やはり、小保方氏側の度重なる反論は結果的に、牽制球になっていたはずです。
難産の末のトリッキーな解決方法は、形式的に筋を通している点で、世論を意識したものです。しかも、学位維持という第三者委員会の結論を覆してはいるので、峻厳なものには見える。間違いなく再審査を受諾するであろう小保方氏にも、訂正などで学位を維持させる点で挨拶ができています。
最終判断が1年後に判明する点も、出色です。「維持」の結論が出るころには、スキャンダルとしての賞味期限は切れています。本件をめぐる報道はだいぶ減りましたが、関係者の自殺で触ってはいけない問題になったことや、論評対象であった小保方氏側からの情報発信が途絶えたことよりも、事件自体が一定程度、過去のものになったことが大きいでしょう。
大学は世間から、白黒をはっきりするように迫られた結果、一応は世論を意識した暫定的な結論を出したうえで、小保方氏の事情いかんによって最終的な結論が決まり、しかも時間がかかることをアナウンスしました。
著名人や有名企業の不祥事の際には、いくばくかの金銭補償を最初から覚悟しつつも、ひとまずはゼロ回答をし、形式的に法廷闘争に持ちこむことがあります。明確な結末を予定調和的に用意しつつも、世間の目を意識して戦うポーズを維持する必要があるからです。判決が出るまでの時間で、報道価値も下がります。
日本人3人のノーベル物理学賞受賞のニュースと、ほぼ同時に報じられた技巧的な決定。出来レースとの批判が、うがった見方であってほしいものです。 <文/長谷川裕雅 構成/日刊SPA!取材班>
■長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)■
東京弁護士法律事務所代表。朝日新聞記者を経て弁護士に転身。現在は政治家や芸能人のマスコミ対策を想定した不祥事・危機対応や、相続問題などにも取り組む。著書に『磯野家の相続』(すばる舎)、『なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?』(プレジデント社)

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