矢口真里の“復帰戦略”は正しいアプローチだったのか?
不祥事を起こした際、重要なのはその後いかに事態を収束させるかだ。そんな「不祥事・危機対応」に関して、多くの企業などから相談を受ける長谷川裕雅弁護士が、世間を騒がすスキャンダルの数々を「危機対応力」という面から読み解く――。
【第九回 矢口真里の復帰騒動】
■長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)■
東京弁護士法律事務所代表。朝日新聞記者を経て弁護士に転身。現在は政治家や芸能人のマスコミ対策を想定した不祥事・危機対応や、相続問題などにも取り組む。著書に『磯野家の相続』(すばる舎)、『なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?』(プレジデント社)
情報は氾濫させて洪水をおこせ。
不倫現場を当時の夫に目撃されたことがきっかけとなり、世間からのバッシングを受けて長期休業した後、約1年半ぶりにテレビに出演した矢口真里さん。「すべて私が悪い」としたものの、前夫との約束を理由に、「(真実は)話せない」「皆様の想像にお任せします」と、詳細を語らずじまいでした。不倫に対する道徳的な批判に加え、1年半も引っ張った挙句に詳細を明らかにしなかった点については、ブーイングもあるようです。単なる私事ですから、矢口さんに説明責任などはありませんが、どの時点でどの程度の情報開示をするのが、戦略的にみて理にかなっていたのでしょうか。
報道には2つの制約があります。1つ目が時間的な制約で、各メディアには締め切りがあります。新たなニュース性が無ければ、続報で引っ張ることはありません。2つ目は物理的な制約です。新聞は紙幅の関係で、テレビは尺の関係で、すべての情報を報道できません。であれば1つの考えとして、情報は小出しにせず初期に出し切るほうが得策ともいえます。分厚い資料を一気に与えて、詳細に検討させないためです。
逆にいえば、記者に対して事前準備の機会を与えると不利になります。十分な準備をさせてしまうと、手ぐすねを引いて待ち構えられます。スキャンダル発覚後、しばらくした後に開かれた佐村河内守氏の記者会見では、記者が携帯電話をわざと鳴らして、ろうあを自称する佐村河内氏の反応をテストしていました。佐村河内氏が冷静さを失って手話通訳の途中で反論を始めたときも、記者がすかさず指摘をしています。
不祥事を起こした後の説明は、すぐさまに行うのが鉄則です。反論を断定的にいい切ってしまえば、事件発生直後において矛盾をつく材料を記者が持ち合わせていません。いいたいことをいったうえで、時間が来たら会見を打ち切ればよいのです。矢口さんも、お騒がせしたことについてのお詫びであれば事件直後にすべきでしたし、これだけ長期にわたって休業する必要もありませんでした。
そもそも、記者会見が必要かどうかも見極めるべきです。芸能界を去る覚悟ができていれば、無駄な会見をする必要などありません。矢口さんは一時、「芸能界をやめようと思っていた」とのことですが、であればなかなか説明をしなかったのも、納得です。
不祥事対応は気が進まないものですが、さっさと片付けてしまい、一刻も早く再スタートを切るべきです。「ご迷惑をおかけして申し訳ない」という便利な言い回しは、常に用意してあるのですから。 <文/長谷川裕雅 構成/日刊SPA!取材班>
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