エンタメ

モテを目的にしたトレーニングは結果が出ないワケ

武田真治さん

自宅にはベンチプレスがあるというほど

俳優・サックスプレーヤーとして活躍する武田真治さんが先ごろ上梓した『優雅な肉体が最高の復讐である。』(幻冬舎)は、ユニークな一冊だ。同書の冒頭に並ぶ写真では、鋭利なまでに鍛え上げられた武田さんの肉体が披露されており、一見、よくある肉体自慢と過剰なストイックさに溢れたトレーニング本のように映るが、さにあらず。自身の経験を踏まえた率直な語り口で、武田さん独自のトレーニング観が紹介される一方、とくに30~40代の男性であれば共感せずにはいられない、肉体の変化や精神の揺れ動き、自意識と現実のズレ、仕事やプライベートでの葛藤などについても掘り下げて語られている。読み方次第では、自己啓発的な示唆を得ることもできるだろう。  そんな武田さんのインタビューを、全3回に渡って紹介していこう。 ⇒【vol.2】『男こそつねに「筋肉痛」を味わう必要がある』
https://nikkan-spa.jp/730236
――武田さんが本の中で語るトレーニング術は、既存の筋トレ本によくあるマッチョ至上主義的な煽りに終始するようなところがなく、方法論の押し付けも感じられません。とても身の丈感に溢れていて、素直に読み進められます。 武田:ありがとうございます。それは、僕が基本的に自己流というか、まずは何でも自分でやってみる傾向が強いからかもしれません。人に聞くのは行き詰まってからでいいかな、と考えるほうなので。そのぶん、無茶なことをして痛い目をみることもありましたけどね。  何事も、まずは自分のやり方でとにかく始めてみる姿勢って、とても大事だと思います。すぐ他人に聞いてしまうのは、要するに方法論にとらわれているということだから。既存の方法論に縛られてしまうと、何かをするのがとても面倒くさくなってしまいます。それに、自分で能動的に動いたり、考えたりすることをサボるようにもなりますし。 ――それは、フィジカルトレーニングも同じ、と。 武田:そうです。よくトレーニング本やジムのインストラクターは、腹筋を鍛えて、背筋を鍛えて、次は脚、その次は腕……なんて具合に、システマチックかつトータルで鍛錬するよう促すじゃないですか。別に気にしなくていいんですよ、全体のことなんて。いままで身体のことなんて何も考えずに生きてきたのに、急にトータルで鍛えようなんておかしな話です。まずは身体の一部から、自分なりに鍛えてみようかな、でいいんですよ。仕事だって、基本的にはひとつずつ身につけていくしかないし、こなせる業務もひとつだけじゃないですか。新入社員が何ひとつできないまま、会社全体を仕切り出したらおかしなことになるでしょ。  トレーニング本などで「腹筋の次は背筋、次は腕」などと全身を鍛えるように解説しているのは、言うなれば、ページ数の調整をしなきゃいけない出版社の都合。全部そのとおりに鍛える必要はありません。もし、僕がまたトレーニングに関する本を出せるなら、一冊まるまる、ずーっとベンチプレスをする時に必要なモチベーションを上げる言葉だけ書いてあるような本にしたいくらいです。  ページをめくると「何でもいいから、まずベンチに寝ろ」「オマエが悔しいと思っていることを思い出せ」「そしてバーベルを握り、一気に突き放せ!」「おっとっと、普段はやらないくせに、今わざわざ家事を始めるな。食器洗いはバーベルを10発あげてからやればいい」みたいな(笑)。 ――それでも、なかなかやる気が起きなくて、トレーニングに取り組めないことはあると思います。そんなときはどうすればいいのでしょうか? 武田:これはSPA!読者の方にだけお話ししますね…………(長考)…………う~ん、やっぱり「これで女性をトリコにしてやるぜ」と思うことでしょうか。 ――それは「モテたい」ということですか? 武田:いえいえ、単純に「モテ」を追求する、みたいなことではないです。モテとは要するに、不特定多数を対象にした曖昧な欲望じゃないですか。たくさんの異性にチヤホヤされたい、みたいな。また神様の話を持ち出してしまいますけど、神様は不特定多数に影響を与えるような存在に対して嫉妬すると僕は思ってます。絶大な人気を誇る時代のリーダーやロックスターが早死にするように。神様は対象が具体的で小さな願いしか叶えてくれません。だから特定の相手のことを考えて……たとえば、パートナーの女性をとことん大事にしたい、真剣に好意を抱いているあの女性を振り向かせたい、という真摯な思いを胸に秘めたときに、グッと力を与えてくれますね。 ――やはりヨコシマな動機では続かないものですか? 武田:そうですね。同じベンチプレスを持ち上げたり、ランニングをしたりしても、「いろいろな女にモテたい」「周囲の人たちみんなからチヤホヤされたい」と考えていると、なぜか思うように効果が出なくて、続かなかったりするんです。たとえば、音楽もそうではないですか。多くの人が「バンドをやってモテたい」なんて理由から学生時代に楽器を始めたりするんだけど、そういう考えに終始してしまう人は、最終的に続けられない。やっぱりその先の「本当に大切なあの人の感情に訴えかけたい、役に立ちたい」「自分自身が変わりたい、向上したい」という、内側の、パーソナルなところにモチベーションの軸を置かないと、効果も出ないし、続かないと思うんですよね。 ――身体を鍛える、という行為は私事であって、自分のブランディングのために持ち出すような事柄ではないと。 武田:はい。肉体って、極めてプライベートなことですからね。というか、肉体以上にプライベートな事柄はないかもしれません。だからこそ、意識は内側に向けて、鍛える理由は内に秘めるほうがいい。不特定多数の人にもてはやされたい、みたいな意識が抜けないと、いつまでも空回りして。息切れしてしまうように感じます。 ――やはり身体が絞れてくると、精神も磨かれていくものですか? 武田:心と身体は連動しているものだと思うので、相互に影響が出てくるのではないでしょうか。僕はトレーニングをするようになって、考え方や物腰が変わったと自分でも感じます。  たとえばトレーニングジムなどで、他の人が100キロのバーベルをガンガン持ち上げているそばで、自分は最初のころ、40キロとか50キロくらいでヒーヒー言ってしまうんですよ。自分の体重程度も持ち上げられず、おのれの無力さを思い知らされると「何が世界平和だ。世の中は平等でなければならない、だ」なんて、上っ面だけのキレイごとに逃げていた自分が恥ずかしくもなる。そして、謙虚さを学んだ気がします。  さらに肉体が精神に追い付いてきて、歳を重ねて、守りたいものが自分なりにできてくると「うん、やっぱり世界平和って大事」「最後は愛だ」「動物愛護も重要だよな」なんて、心から願うようになるんです。表面的には同じでも、重みが全然違うでしょう。世の中が……というと大袈裟かも知れませんが、日常生活がよりよくなることを願うなら、まずは自分のこと。自分の人生を自分で支えられるように、自分の精神を支えられるようにならないと。他の心配をするのは、その後ですよ。 ――できているつもりでも、実はできていないことが多い、ということでしょうか? 武田:ですね。大人の男なら、自分の面倒くらい自分でみられるようにならなきゃダメなんじゃないかな。何でも人任せにせず、自分でもできるようにしておく。30代の半ばから40代となると、仕事でもたくさん後輩ができたり、部下を持ったりして、他人にやってもらえる場面も増えてくるのではないでしょうか。そこで甘えてしまうと、どんどん自らの立ち位置を人に奪われることになってしまいますよ。酸いも甘いもわきまえてきた今だからこそ、自分から率先して動いて、活気を生み出すくらいの存在でありたいですよね。 【武田真治/たけだ・しんじ】 1972年、北海道生まれ。俳優、ミュージシャン。89年、第2回ジュノン スーパーボーイコンテストでグランプリを獲得。翌年、テレビドラマで俳優デビュー。以来、映画、ドラマ、舞台で俳優として活躍する一方、「めちゃ×2イケてるッ!」などバラエティにも出演。また、サックスプレイヤーとしても多彩な活動を繰り広げ、さまざまなミュージシャンと共演している。 <取材・文/漆原直行>
優雅な肉体が最高の復讐である。

「肉体は人生の名刺である」

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