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安倍首相は沖縄県民の「信頼回復」できるか?

「米軍の抑止力維持と普天間の危険性除去を考え合わせたときに(辺野古移設は)唯一の解決策だ。引き続き日米合意に従って進めていきたい……」

 安倍晋三首相は、衆院解散の翌日、一部メディアの取材にこう答えている。

 あたかも、11月16日に行われた沖縄県知事選で「移設反対」を訴えた翁長雄志氏が大勝したことなどなかったかのような言い回しだが、解散総選挙に突入したことで、閣僚の不祥事同様一度リセットしたい腹積もりなのだろうか。地元メディアの記者は皮肉交じりにこう話す。

「“大義なき解散”を、必死に“アベノミクス解散”と触れ回っているように、沖縄でも与党候補は経済政策の評価を全面に訴えることになるはず。沖縄経済は数字だけ切り取ると景気が上向いているように見えますし、何より前知事の仲井真氏がもぎ取った『2021年まで毎年3000億円』という振興予算もありますから。ただ、それでも沖縄では、知事選に引き続き基地の移設問題が最大のテーマになることは間違いない」

 確かに、この記者が前置きするように沖縄経済は好調と言える。実際、クルーズの乗り入れなどもあってこのところ外国人客が急増し、沖縄を訪れる観光客は過去最高の658万人を突破。完全失業率も21年ぶりに5か月連続4%台を記録しているからだ。前回の知事選では「保守分裂」があったことで、地元経済界の支持も分かれ翁長氏圧勝に繋がったものの、次期衆院選では、改めて地元経済界の動向が選挙戦に大きく影響すると言われている。ある地元企業の経営者が話す。

「これからの若い世代の雇用をどうするのか? 地元経済をどうするのか? といった視点で選挙を盛り上げてもらいたいのに、沖縄の新聞は基地の話ばかり。次の選挙も翁長さんのグループが勝つとせっかく上向いてきた景気に水を差しかねないですが、このまま自民党に任せてても、今まで何十年もそうだったように基地問題は進まないでしょうね。次も選挙のテーマも基地問題になってしまうのは残念でならない」

県知事線を受け、「5年以内の運用停止」も宙ぶらりんになってしまった普天間飛行場 撮影/日刊SPA!取材班

 安倍政権はこれまで、毎年3000億円の振興予算を始めとした負担軽減策をいくつも提示してきた。基地の移設問題を巡っても、「普天間の5年以内の運用停止」を約束しているが、悲しいかな、沖縄に寄り添おうという安倍政権の思いとは裏腹に、県民の気持ちはこれに反比例するように離れていっていると見る人も多い。地元の地方議員が説明する。

「次の衆院選も翁長さんが作った今の勢いは続くのではないかと私も思います。なぜなら、沖縄の基地問題について、安倍政権がいかに軽く考えているか知事選を通して県民にバレてしまったから。繰り返し普天間の『5年以内の運用停止』とアピールしていましたが、完全閉鎖についてはあいまいにしたままで、米軍が普天間の運用を停止したあともずっと施設を使い続けることになるのだろう……と、多くの県民に見透かされている。そもそも5年で運用停止したとしても、辺野古が着工してから運用開始まで9年かかるという試算もあり、米軍サイドから見れば、基地の空白期間が4年も生まれるわけで現実的じゃない。実際、米太平洋軍のロックリア司令官は『日本政府からそんな要請はきていない』と公式に話していますしね。でまかせもいいところですよ」

 政府に対する不信感は、何も今に始まったことではない。裏切られ続けてきた沖縄県民の記憶に残るのは、若き日の安倍首相の姿だ。沖縄国際大学大学院教授の前泊博盛氏が話す。

「安倍首相はムキになって基地移設をやろうとしていますが、そもそも首相は官房長官時代にも、建設を強行するため海上自衛隊の護衛艦を投入しようとするほどでした。当時は、石破防衛庁長官が『やりすぎた』と反省のコメントを出しましたが、安倍官房長官は『海上警備活動に使えるものがあれば使うのは当たり前だ』と強弁する始末……。あの頃は海上保安庁が警備の中心を担っていたが、反対運動が激しく、“警備活動”を強行した場合、反対派の市民から負傷者を出しかねないので退いた経緯があります。ところが、防衛庁の守屋事務次官(当時)は『強行するなら、ちゃんと(反対派市民)を押さえてくれ』と言い、海保は『それを言うなら、自衛隊が自分でやれ』と手を引く構えを見せるなど大もめにもめた……。つまり、誰のための基地かという議論が抜け落ちており、他国の軍隊の基地を作るために自国民を犠牲にするなどあり得ない話です。政府は基地の移設を血道をあげて取り組んでいますが、そもそも、誰のための、何のための基地か? ということですよ。基地問題を解決しようという本気度が今もっとも試されている時期ですが、残念ながら、日本には長らく命を懸けてこれをやろうという政治家がいないという状況です」

 一敗地に塗れた県知事選からわずか1か月足らずで、どれくらい本気度を見せられるか? 沖縄県民は安倍首相の声に耳を傾けているはずだ。 <取材・文・撮影/山崎元(本誌)>




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