更新日:2015年01月19日 09:40
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アメコミファンから非難を浴びた「ベイマックス」――ほとんど詐欺!? 映画宣伝が炎上するワケ

ほとんど詐欺!? 映画宣伝が炎上するワケ「アナと雪の女王」の大ヒットも記憶に新しい、ディズニーの新作映画「ベイマックス」。雪だるまのような風貌のロボットと少年がハグするポスターなどから、ロボットと人間の心の交流を描いた作品と思われがちだが、この宣伝が映画やアメコミファンから問題視された。 ◆アメコミファンから非難を浴びた「ベイマックス」  実はこの作品、「スパイダーマン」や「アベンジャーズ」でおなじみのマーベルコミックスが原作のれっきとしたヒーロー映画。本国版のポスターや予告編ではヒーローやロボットが大集合し、原題も“Big Hero 6”とコテコテのアメコミ映画なのだ。ところが日本ではヒーロー映画としての側面を極力排した宣伝がおこなわれたことから、Twitterやアメコミ関連のブログなどで疑問の声が多く挙がるプチ炎上状態となってしまった。かくいう筆者も本作を楽しみにしていた1人だが、タイトルやビジュアルイメージの違いに、はじめは公開されたことに気づかなかった。  こうした映画宣伝を巡った炎上事件は今回が初めてではない。近年だけでも、ゾンビ映画ながら親子の絆を描いたパニック映画として宣伝された「ワールドウォーZ」や、予告編で堂々とネタバレしていた「大脱出」など、多くの作品がネットやSNS上で非難を浴びた。こうした現象について放送作家で映画活動家の松崎まこと氏は、インターネットでの情報伝達の速さに加え、観客の姿勢や上映方法の変化を理由に挙げる。 「昔は宣伝に騙されて『ハズレ』を掴まされることも、映画の楽しみの一つでした(笑)。逆に名画座での2本立てなどで、期待していないほうの映画が『当たり』ということもありましたね。大手日本映画会社の新作も、基本は2~3本立てでしたしね。炎上騒動については、観客のリテラシーの低下や、予想外のものを見たくないという人も増えた結果だと思います」  やはり、鑑賞料金の値上げや、情報が多くなったことで観客の「ハズレを掴みたくない!」という思いが強くなっているようだ。では、宣伝方法そのものについてはどうだろう? 「70~80年代頃は、映画宣伝の王道は『トンデモ』でした(笑)。たとえば、当時人気があったロバート・レッドフォードを主役のように押し出して、実際は十数分しか出ていなかった『遠すぎた橋』(1977)。南米から輸入した殺人を記録したフィルムという触れ込みで公開しながら、実際はチープな殺人シーンを追加撮影しただけの『スナッフ/SNUFF』(1976)など、今だったら間違いなく炎上しているでしょうね」 ◆目を引くため詐欺すれすれに  トンデモ宣伝だらけだった昔の映画界だが、なかでも怪獣映画やホラー映画は観客の目を引くためハッタリだらけだったという。 「ジョン・ギラーミン監督版の『キングコング』は全長20mの実物大モデルが登場しますが、動きがぎこちないこともあって登場シーンはごく僅か。ほとんどは人が入ったスーツで処理していたのに、宣伝では全編実物大モデルが活躍し、破壊する建物や電車なども実物を使うかのような言い方をしていました。ホラー映画の『バーニング』ではポスタービジュアルでハサミを持った殺人鬼から逃げ惑う人たちが写っていましたが、これは日本で行った合成。逃げ惑う人たちは、東宝東和の女子社員だったそうです。『全米38州で上映禁止!!』とプロモーションした『サランドラ』も、実際は “38州”に何の根拠もなかったり、メチャクチャですよ(笑)」  数々のトンデモ宣伝を見てきた松崎氏だが、今回問題となった「ベイマックス」の手法はそういった作品とは異なるという。 「本当に映画の本題から外れているのか見直す必要があると思います。また、観てない内にリアクションしている人も多い気がします。ただ、世界的にメガヒットとなった『アベンジャーズ』でさえ、日本では興収30億円止まりでしたし、“アメコミ”にこだわるのは配給会社だけでなく、ファンにとっても上策ではないかもしれません」  “FROZEN”を「アナと雪の女王」として大ヒットさせ、今回の「ベイマックス」も興収57億円を突破したディズニー。コアなファンには心苦しいかもしれないが、宣伝アプローチとしては結果オーライといえるだろう。 【松崎まこと/まつざき・まこと】 放送作家/映画活動家。(Twitter ID:@nenbutsunomatsu)。放送作家としてTOKYO-MX『博士の異常な鼎談』『松嶋×町山/未公開映画を観るTV』、TBSラジオ『伊集院光/日曜日の秘密基地』などの構成を担当。現在は“映画活動家”としてbayfm『Power Bay Morning』、FM栃木『FRIDAY MOVIE SHOW』、ニコ生で配信の『WOWOW ぷらすと』などに出演。映画深堀りトークを行う。映画評論家・松崎健夫とのユニット“松崎ブラザーズ”の“松崎A”としても、様々な映画イベントで意欲的に活動中。昨年末よりメールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」に、「映画活動家日誌~“田辺系”先物買いガイド」(https://bookstand.webdoku.jp/melma_box/page.php?k=s_hakase)の連載をスタート! <取材・文/林バウツキ泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン
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