360年の歴史ある土木遺産「玉川上水」を分断する道路計画
景観・歴史・文化・環境・生態系などの破壊に目をつぶり、ひっそりと進行している開発計画は数多い。それは本当に必要な事業なのか? 地元住民はどれだけ情報を与えられているのか? 全国各地で進められている、“あまり知られていない”開発計画の現状をリポートした!!
◆50年以上前の道路計画が先人の遺産と周辺の緑を破壊
~玉川上水(東京都)360年の歴史の土木遺産を分断~
小平中央公園(東京都小平市)に隣接する雑木林が、50年以上前にまとめられた都道建設計画で揺れている。面積1万2700㎡の林の半分を都が購入し、今年2月には柵で囲われた。林にはセミの一種のヒグラシをはじめ、ラン科のキンランなどの希少種が生息する。
「この林は土の上で過ごせる貴重な場所。多くの人が思い思いに利用しています」と話すのは、「みどりのつながり市民会議」共同代表の尾川直子さんだ。
公園の東に面する林はコナラやケヤキ、ヒノキなどが枝を広げ、「どんぐり林」とも呼ばれる。この林と南に隣接する玉川上水に生息する希少種は、キンランなど植物10種、アオバズクなど鳥類9種、ヒグラシなど昆虫3種に上る。
ところが現在、林の東半分、6500㎡を収用しての都道計画が進む。’62年に策定され、東村山市と町田市を結ぶ道幅36m・片側2車線、総延長約27kmの道路が造られる。どんぐり林は半分に縮小し、静かな林のそばに車道ができるのだ。伐採される樹木は481本に上る。
◆住民投票実施するも結果は開票されず
工事の影響は玉川上水にも及ぶ。上水は都の歴史環境保全地域で、’03年には国の史跡にも指定。開削から360年以上の歴史を誇り、土木遺産としての価値も持つ。ところが、道路建設で幅36mの橋が架けられ、上水は暗渠のようになる。また上水脇に生い茂る木々も伐られ、遊歩道も分断される。
計画見直しを求める住民は’13年3月、住民投票条例の制定を小平市長に直接請求。条例は同月に成立したが翌4月、市議会が「投票率50%未満なら不成立」という要件を課した。その結果、投票率35.17%で不成立となり、開票も行われなかった。開票を求めて住民が市を相手取り起こした訴訟は現在、最高裁で争われている。
国は’13年7月に都道計画を承認。「市の対応からはこの問題に触れたくない、住民参加に消極的、という印象を受けます」と尾川さん。6月には柵内の林を住民が利用できるよう求める請願を市議会に提出。現在、署名を集めている。
― こっそり進む[ニッポンの風景]破壊計画 ―
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