失言のオンパレード…森喜朗元首相という人【鴻上尚史】
そう考えると、浅田真央さんへのあの発言。「なんとか頑張ってくれと思って皆見ておられたんだろうと思いますが、見事にひっくり返っちゃいましたね。あの子、大事なときには必ず転ぶんですよね。なんでなんだろうな」は観客へのリップサービスだったんだろうと感じるのです。
人の良いおじさんは、観客が聞きたいことを話します。観客をもてなすためです。その場で、一番、求められていることを話す。それが、後々、どんな影響を与えるかどうかは考えません。目の前の人を楽しませることが大切だからです。だから、失言のオンパレードになるのです。
こういうおじさんは、じつは、職場にも親戚にも普通にいます。その場を楽しませるので、人気があったりします。
もちろん、全体を楽しませるために、相手に余計なことを言ったりします。
「ちょっと太ったんじゃないか?」
「髪の毛、薄くなってないか?」
「結婚、まだなのか?」
みんなが聞きたくても聞けないことを、じつに悪気なく、言います。そのざっくばらんさが人気の元です。けれど、東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を務める人は、「必ず転ぶ」などという表現をしてはいけないのです。
驚いたのは、ネットで「全文を読んだのだけれど、どこにも悪意はない。これはマスゴミのでっち上げである」という弁護がずっと続いたことです。もし、森・元首相が民主党だったとしても、みんな、弁護したか? 絶対にしなかったと僕は断言します。
悪意があろうがなかろうが、絶対に言ってはいけない言葉が「立場」にはあるのです。親戚や窓際のおじさんが言えても、言ってはいけない「立場」はあるのです。こんな人が会長をやっていてはいけないのです。
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