「このしわくちゃジジイを見てみなさい」クリス松村が夢を目指す若者に贈る言葉
クリス松村がいま、ラジオDJとして大活躍している。
現在クリスは、『クリス松村の音楽処方箋』(NHKラジオ第一、毎週月曜20時5分~)、『クリス松村の「いい音楽あります。」』(ラジオ日本系、毎週日曜20時~)、『クリス松村のザ・ヒットスタジオ』(MBSラジオ、毎週金曜深夜0時~)と、実に3つのラジオ番組でパーソナリティを担当。
バラエティ番組で見せる姿とはまったく異なり、ラジオでは始終冷静かつクレバーな印象を与える語り口で淡々と音楽について語るクリスだが、レコード・CD計約2万枚が収められているという自宅の資料室から自ら持ち込む“クリス松村にしかできない”選曲が非常に人気を集めているのだ。
そんなクリスに、現在のタレント活動のスタンスやラジオDJに至る道などについて聞いてみた。
――テレビでのクリスさんとラジオでのクリスさんは、まったく違う人のように感じられます。そこは意識的に分けているんですか?
クリス「私は今から9年前に『クイズ!ヘキサゴンII』に出演させていただきました。そこからテレビの世界に入ったわけですが、当時周囲の出演者は10代とかハタチくらいの人ばかりだったんです。
そこで自分ひとりだけ落ち着いたキャラでやっても当然ウケないだろうと分かっていました。ああいうチャンスをもらったわけだし、番組も私をいじる流れになったから、もうこれは乗るしかないだろうと。そういう意味では、テレビではキャラをつくったといえるかもしれません」
――そのキャラは、いまはもうやめているということですか?
クリス「バラエティ番組の私は“いじられてなんぼ”だし、お笑い芸人でもなければそういう能力もないわけだから、自分の足で歩いていくためには違うことをしないといけない。“じゃあ私の武器は何?”って考えたら、音楽ですよね。映画とかミュージカルも含めて、エンターテイメントについて語ること。
『ヘキサゴン』などでイジラレ役としてブレイクしたことは忘れないし、当然すごく感謝もしていますが、自分の足で歩くための手段をとったということです。
とはいっても、バラエティ番組も好きだし、必要となればキャラに徹してリアクションの大きい“クリス劇場”を演じますよ。バラエティ番組に出演するときは、自然とそういうスイッチが入るというのもありますが(笑)」
そうしていま、音楽に特化したラジオDJとして確固たる地位を築きはじめているクリス。そのポジションは、むかしから目指していたものだったのだろうか?
――ラジオDJという“職業”は、ずっと目指していたものだったんですか?
クリス「私はラジオで育った人間ですから、当然“やってみたい”という気持ちはありましたし、夢でした。でも、当時はあくまで“自分が好きな音楽を自分の選曲で聴いてもらいたい”という気持ちが強く、言ってしまえばディスコのDJでもよかったんです。“ラジオDJを目指していた”というわけではありませんでした。
ただ、私はいまラジオのDJになれたことで色々な夢が叶ったけど、夢を目指す若い人たちには、『私みたいなやり方もあるよ』ということを伝えたいんです」
――クリスさんのようなやり方とは?
クリス「私はこれまで、芸能のマネージャーをやったり広告代理店で働いたり、エクササイズのインストラクターをやったりと、どんなときも一生懸命働いてきました。そのどれもがいまの自分に活かされていますし、そうなるように自分で仕向けてきました。インストラクターの頃は、スタジオに入るとき『ここは帝国劇場』というつもりでドアを開けていましたしね。
いま、夢が叶わないって悩んでいる人はすごく多いと思います。けれど、思い通りにならないのは当たり前なんですよ。そういうとき、自分の好む仕事に就けないときにいかに生きるか? それが大事だと思うんです。ひとつのことだけを目指すのが偉いってわけじゃない。その夢だけを目指して生きるのではなく、まずはいろんな業界や仕事で試してみればいいと思うんですよね。
その経験が自分の力になるし、そうやっていかに夢を目指すための基本の部分も追及し続けられるかが大切なんです。違うことをやりながらでも、夢を叶えるための勉強も同時にしっかりしていけば、必ずいつか縁があるはず。突然道が開けるっていうことがあるんですよ。
このしわくちゃジジイを見てみなさい。こんな時が経って、しわくちゃになったぶん、夢がこんなに大きく叶ったのよ」
――“しわくちゃジジイ”ですか。
「私はネットとかで“気持ち悪い”とか“しわくちゃ”とか言われてるけど、そんなのなんとも思わない。なぜなら、いろんな仕事でいろんな経験をしてきたから打たれ強くなってるし、その経験が自信になってるから。“気持ち悪い”とかなんとか言われても、いま幸せなんです」
そんな“いま”と比して、10代の頃のクリスは「死ぬほど悩んでいた」という。
海外で育った幼少期は日本人ということでいじめに遭い、日本に帰っても帰国子女ということでまた別種のいじめを受ける。さらに、自分が同性愛者であることに気づき始めたことも悩みに拍車をかけた。
自分はプライドが高いと自ら話すクリスは、これらの悩みを誰にも相談せずひとりで抱えていたそうだが、ひとつ“救い”があったという。それが、音楽だ。
クリス「何かひとつでも夢中になれるものがあれば、それが救いになるんですよね。なぜなら、夢中になればその“次”を追うから。
私の場合は音楽でしたけど、音楽や歌手に夢中になれば次の新曲を追うし、さらにその次はコンサートに行きたくなる。そのことが純粋に楽しいから、救いになる。私は、相当な悩みを抱えていた10代でも、いま振り返れば全部楽しいんです。
そしていまでも、夢中になることが原動力になってます。いまでも大好きなアーティストの次の曲を聴きたい、次のコンサートに行きたいと思っていて、そのために一生懸命働くことができるんです」
音楽について、ラジオについて。そして夢や悩める若者について。自らの愛するものや人生について話すとき、そこには冷静ながらも内に秘める熱さがにじみ出る、これまで知らなかったクリス松村の姿があった。
様々な苦労を経て、今年2015年から2つのラジオ番組で単独パーソナリティを務めることとなったクリス。“しわくちゃジジイ”になって大きく夢を叶えたクリスの生き方は、多くの人に勇気を与えるものだろう。 <取材・文/宇佐美連三、撮影/長谷英史>
テレビではキャラクターをつくった
クリス流、夢の叶え方「このしわくちゃジジイを見てみなさい」
夢中になることが救いになる
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