「Are you Stupid ?(アホか?)」――46歳のバツイチおじさんはセブ島のスパルタ式英語合宿で敗北感を味わった〈第9話〉
突然、嫁さんにフラれて独身になったTVディレクター。御年、46歳。英語もロクにしゃべれない彼が選んだ道は、新たな花嫁を探す世界一周旅行だった――。当サイトにて、2015年から約4年にわたり人気連載として大いに注目を集めた「英語力ゼロのバツいちおじさんが挑む世界一周花嫁探しの旅」がこの度、単行本化される。本連載では描き切れなかった結末まで、余すことなく一冊にまとめたという。その偉業を祝し、連載第1回目からの全文再配信を決定。第1回からプレイバックする!
* * *
英語も喋れないのにたった一人で世界一周の旅に出ることになった「46歳のバツイチおじさん」によるズンドコ旅行記、今回も2か国目・フィリピン編です。前回、空港で新生銀行のカードがマシンに飲み込まれるというトラブルに巻き込まれるも、なんとかセブ島にある全寮制のスパルタ英語学校にたどり着いたバツイチおじさん。さて、英語力ゼロのバツイチおじさんは本当に喋れるようになるのか? そして、飲み込まれたカードは戻ってくるのか? やや長いですが、必見です!
【第9話 口ではなく、顔で自己紹介をする】
英語合宿2日目、ついに授業が始まる。
まず最初に今の自分の実力を測るレベルテストを受けた。項目はリスニング・リーディング・文法。大学入試以来の英語のテストだ。
そしてスピーキングのテストはマンツーマンで試験官と英語で話す。正直、何言ってるのかさっぱりわからない。
結果は平均点が34.63/100点。レベル2、つまり下から2番目のクラスになった。
その後、学校のスタッフの引率で同期(この学校ではバッチメイトと呼ぶらしい)の日本人・韓国人と近くのショッピングモールのキャッシュディスペンサーでお金を下ろしに行った。新生銀行のキャッシュカードがない俺はクレジットカードでお金を下ろすしかなかった。
学校スタッフに下ろし方を教わる。「同じ失敗は二度としない」。それは男の知性である。なのになぜか007の「ジェームスボンドは二度死ぬ」という不吉な映画のタイトルが頭をよぎった。慎重にキャッシュカードを入れる。するとまた画面に英語の不吉な文字が。
「慌てない慌てない」
習った通りにボタンを押し暗証番号を入れる。そして最後に適切な強さでEnterボタンを叩いた。すると、機械は静かに音を立てた。緊張が走る。するとまたもや機械がウンともスンとも言わない。なんだなんだ? その後、静かにカードが出てきた。
「ん?」
画面はまたもや初めの画面に戻る。また引き出せない。
今度は別のバッチメイトがお金を引き出してみる。やはりお金が引き出せない。いろんなカードで試してみたが誰もお金を下ろせない。「大丈夫か?」一同に不穏な空気が流れた。
学校のスタッフも慌てている。「別のショッピングモールで試してみましょう」そう言ってお金を下ろすために別のショッピングモールに向かった。フィリピン3回目の挑戦。同じ手順で操作をした。すると、ガタンゴトンと音を立てお金が出てきた。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
バッチメイトから歓喜の声が上がった。ただお金を下ろせただけなのに。
俺はお金を引き出すことができたが、何人かはできなかった。おそらくだが、カードの磁気の相性でお金が引き出せる人引き出せない人がいる。フィリピンは一事が万事、こんな調子だ。
「こんな場所で、俺の新生銀行のカードは本当に帰ってくるのか?」
その後、キャッシングしたお金を握りしめ、スーパーでトイレットペーパーやフィリピン産のスナック菓子などを買った。
一旦学校に戻ったら次の一週間はまったく外に出れない。酒を飲み、仲間との親交を深める暇もなく、そもそも本当に酒がなく、いやここには酒がない!
そう、この学校はお酒の持ち込みが禁止。もし見つかれば即退学なのだ。
英語を学ぶ代わりに禁酒しなければならないのだ。タバコもやらない俺の趣味は酒くらい。週7で飲む俺には辛すぎる。くじけてたまるか。一刻も早く英語を覚えて花嫁を探すんだ!
夜6時にはご飯を食べ終え、英単語をアイフォンで聞きながら、夜の11時30分にはベッドに入った。こんな人間らしい生活をしたのは数十年ぶりである。
翌朝、6時30分に起きた。蒸し暑い。今日からスパルタ式の授業が始まる。
7時に学食に行き、朝食をとる。朝食をちゃんととるのも十数年ぶりかもしれない。
一時間目はリーディングのマンツーマン授業に出た。先生はリザ。24歳の可愛い先生だ。もちろん、会話はすべて英語。まずは英語で自己紹介をしなければならない。
俺 「マイネームイズ ゴッツ アイアムジャパニーズティービープログラムディレクター」
リザ「ホワイ ゴッツ?」
なぜごっつなの? それに答えるほどの英語力は持ち合わせてはいない。そもそもあだ名の由来など考えたことがない。
知恵を絞っても出てくるはずがない。そもそもボキャブラリーがないのだから。
「どうしよう?」
「どうすればいい?」
「俺は誰だ?」
「俺は奇人、あきらめの悪い男」
そして頭に白い稲妻が走った
今考えるとなぜあんな行動をとったかわからない。
俺はとにかく必死だった。
「いないいないバー!」
それは、言葉のわからない赤ちゃんに絶対ウケる鉄板のギャグだった。
「マイフェイスイズ ライクは……、マイフェイスイズ ライクは……」
ここでフリをいれ、顔を隠し、時間をおいて……
「(いないいない)…ごっつ!」
フィリピンの先生は大爆笑だった。やはりトラディショナルギャグは強い。
午前中の4時間はすべてマンツーマンで若い女性の先生だったのだが、すべての授業でこのギャグをやった。そしてウケた。いや、恥ずかしながらウケを頂いた。
しかし、英語の勉強をしに来てるのに、英語を使わず、顔でコミュニケーションをとる。このやり方はいかがなものなのか? 一抹の不安が頭によぎった。
12時からの昼食時、日本人バッチメイトのYUKIが俺に話しかけてきた。YUKIは大手監査法人の会計士でいつも正しいことを言うやつだ。
YUKI「ごっつさん、なんか変な日本人がいるらしいですよ。顔で笑わす人らしくて、先生たちの間で『変な人』ってめちゃくちゃ噂が広がってるらしいです。なんか不気味ですよね」
恥ずかしくて汗が出た。
やばい。
2日目から俺の奇人ぶりが拡散されようとしている。
なんとか手を打たなければならない。
俺「ここで英語を勉強しに来てるはずなのになんか勘違いしてるよね、その人」
俺は涼しい顔でもみ消した。
こういった経緯で俺の『いないいないバー自己紹介』は永遠に封印されることになったのだった。
午後1時から一時間ほど自習をした。自習室は監視付きだ。英単語と中学の文法の勉強をした。
午後2時から再びマンツーマン授業。自己紹介をするよう、ジャセット先生に言われるが、『いないいないバー自己紹介』を封印した俺には打つ手がなかった。苦し紛れに、ジャセットが何か喋ると「ハァア ハン」と帰国子女風の相槌をする真似をした。全く理解できてないのだからギャグにもなってない。
ジャセットは冷たく俺を見つめた。
しかし、先生たちはこういう全くしゃべれない生徒に慣れてるらしく、生徒の言おうとしてる単語や意味を推測して、単語を言ってくれる。それを頼りに次のセンテンスを探す。こうやってなんとか会話風の授業になっていくのだ。
元々、タガログ語を話すフィリピン人。フィリピン英語は努力の結晶だという。先生たちも並々ならぬ努力をして英語を身につけた。だからこそ、伝えたいけけど伝わらない気持ちを本当によく理解してくれている。
次の授業はグループクラス。ここで初めて先生以外の人たちと合同で授業する。先生の英語でさえ聞き取れないのにグループの話なんか聞き取れるわけがない。
「もう、どうにでもなれ!」
ヘビだらけのプールに全裸で飛び込む覚悟で教室に入った。そこにはコリアングループ男女が3人いた。日本人は俺一人。またも自己紹介となった。
俺「マイネームイズ ゴッツ アイアムジャパニーズティービープログラムディレクター」
ノーリアクション。愛想笑いもなかった。自己紹介はあっさり終わってしまった。
コリアングループは25歳ぐらいの男子ケイとレイア、30歳ぐらいの女性ジュリ。彼ら独特の結束感があり、決してこちらに心を開こうとしない。授業中もずっと韓国語で盛り上がっている。時には英語を使い、内輪受けギャグで笑う。俺に対する気遣いはまったくない。先生のジェムは気を使ってくれるが、先生が何を言ってるか俺にはわからない。
俺は完全に孤立していた。
ジェムから問題が出た。
「テキストにある10個の単語を1分で覚えて皆の前で発表しなさい」
なんとか覚えようとしたら「はいそこまで!」とタイムオーバーになってしまった。しょうがない。他の人が喋ってるのを聞きながら様子を見るしかない。
先にレイアが二つの単語を発表した。
ジェムが「はい、次はごっつの番よ!」と言った。
とりあえずごまかすしかない。
「レイアズ セイムワード」
「レイアが発表した2単語がかぶった」とお茶目な笑顔で言った。
すると、イケメン韓国人のケイが呆れ顔でこう言った。
「Are you Stupid ?(アホか?)」
爆笑が起きた。
明らかに孤立している。
笑わせてるんじゃなくて笑われている。
なんとも言えない敗北感を味わったが、その場の空気を察し愛想笑いをするしかなかった。
「くっそー」
言葉の壁も高いが、国籍の壁、年齢の壁もさらに高い。
俺は本当にここでやっていけるのか?
その後、もう一つのグループクラスをとった。ここは韓国人と台湾人が入り混じっている。平均年齢は25歳ぐらい。若い。切り札の『いないいないバー自己紹介』を繰り出すことも考えたが、「Are you Stupid?(アホか?)」という言葉が心に突き刺さったままの俺は、その封印を解かず、しどろもどろの挨拶をした。
最後の授業は、自分で選択できるプレミアムクラス。ネットで「中学文法が大事だ」という記事を読んだので、日本語の文法クラスを選択した。このクラスは日本人先生のさとみさんが日本語で中学文法を詳しく教えてくれる。日本語がスポンジのように頭に染み渡っていった。
「やっぱり日本語、いいな~」
晩御飯を食べ、自習を始めた。
「真面目か!」
自分で自分を突っ込みたくなった。
しかし、真面目にならざるを得なかった。
次の授業の予習をしておかないと、全く授業にならない。
もう「Stupid(アホ)」と呼ばれたくない。
21時30分からは単語と熟語のテストがある。頭も心もくたくただが、やるしかない。もうキャパオーバーの脳みそにさらに単語と熟語を詰め込みテストを終えた。
テストが終わり片付けをしていてあることに気づいた。
他の中国、韓国、台湾の生徒は、自習室から出る気配がない。
皆、朝8時から勉強してるはずなのに。
英語をマスターしなければ就職ができない。貧乏から脱出したい。きっとさまざまな想いがあってここに来たに違いない。とりあえず英語ができれば転職に有利だから……そんな甘いモチベーションではなさそうな雰囲気がそこには漂っていた。
ましてや俺の「英語を学んで花嫁を探そう!」という不埒なモチベーションなわけがない。今の段階で負けてるのに、ここで勉強を切り上げたら、いつまでたっても追いつけるわけがない。
「ここでやめたら男の恥。いや日本人として恥ずかしい」
俺は負けじと23時30分まで勉強した。
こうして初日の授業は13時間30分、ほぼノンストップ勉強をすることなった。こんなに勉強したのは大学受験のラストスパート以来である。
頭に血がのぼってしまい、酒も飲んでないのにふらふらの千鳥足で部屋に帰っていると、部屋の前にガマガエルがいた。
「あ、ど根性ガエルだ!」
俺は自分を奮い立たせようと、「ど根性ガエル」の歌を歌った。
「根性~根性~ど根性~ 泣いて笑って喧嘩して~♪」
その後、いつも飲む寝酒もないため、すぐに布団に入った。
そして、あっという間もなく深い眠りについた。
こんな調子で、スパルタ式英語学校での一週間が瞬く間に過ぎていった。
ここにいると異様に腹が減る。日本にいるとほとんどご飯を食べなくても平気なのに。おそらく、気温や水も含めて、なんとか環境に適応しようと大量のエネルギーを消費しているのだろう。爪が伸びるスピードも速い。人間の体って不思議だ。
ただ、話したこともない先生に「アーユータイアード? オケイ?(疲れてない?大丈夫?)」と聞かれるほど疲れていた。日々、英語しか使わない。インプットしてはそれを使い、しゃべり、聞く。よく聞かないと何を言ってるかわからない。ただ、なんとなく英語力が伸びている手応えはあった。
英語合宿一週間目の金曜日、日本人先生のさとみさんが俺のとこにやってきた。
「ごっつさん、新生銀行のカードが見つかりました。フィリピンでこれは珍しいです! すぐに行ったほうがいいですよ」
俺は午後の授業を休み、携帯と財布とパスポートを持って、カードを飲み込んだDBPという名のフィリピンの銀行に向かった。時間は14時を過ぎていて、ギリギリ閉店時間に間に合うかどうかの瀬戸際だった。俺はタクシーに飛び乗った。
俺 「ドューユーノー DBP?」
運転手「イエス!」
だが、走れど走れどDBPに到着しない。
俺 「ドューユーノー DBP? シュア?」
運転手「イエス!」
しかし、タクシーの運転手は途中で降りて道行く人に住所を聞いている。なんなんだ? スマホで検索してると、DBPがセブシティに数十カ所ある。
確かにDBPは知ってるけど場所がわからない。なるほどね!
タクシーの運転手にDBPの本社に急いで行くよう指示をした。道が混んでるので、対向車線を通って追い抜きをしてくれる。
到着すると2000ペソ、日本円で5100円ちょいだ。
優しいタクシーの運転手にお礼を言うと、恥ずかしそうに目をそらし笑った。シャイな人だ。
俺はDBP本社に入って担当者を探した。いよいよ1週間で培った俺の英語力を試すときがきたのだ。
俺「マイクレジットカードイズ ドロウンド バイ エイティーエム アット マクタンエアポート アイワント ピックアップ マイカード」
すると銀行の人は、コンピューターでなにやらチェックをし、「パスポートプリーズ」と言った。そして、俺の身元を確かめると「ここにはない。近くの支店にあるからそこに行ってくれ!」と言った。
財布を見ると、俺にはもう1000ペソしか残っていなかった。
しかし、行くしかない。タクシーに乗る前に運転手と交渉した。
俺「アイハブ オンリー ワンサウザウントペソ オケー?」
タクシーの運転手は 「オーケー!」と招き入れるポーズをした。また優しい運転手さんに出会った。それから大渋滞を抜けて、なんとか銀行に着いた。
メーターは1200ペソ。タクシーの運転手に「アイムソーリー アイハブ オンリー サウザウント」と改めて言うと、何も言わずお金を受け取ってくれた。笑顔でお礼を言うとまた恥ずかしそうに目をそらし笑った。ほんとにシャイな人が多いのね。
また俺の所持金は0円になってしまった。しかし、今度はちゃんと見通しが立っていた。カードを取り戻し、新生銀行に電話をかけ、カードを一時停止から再開する。銀行内のATMを使うから飲み込まれてもすぐに取り出せる。今度は確実になんとかなる。
銀行に入ると、インテリ風の女性が窓口にいた。事の経緯を英語で話すと「パスポートをくれ」と言う。パスポートを確認すると、別部屋に行った。そして「ユアーネーム イズ リュウイチロウ ゴトウ?」と聞くので「イエス」と答えた。そして、にこりと笑いカードを返してくれた。
やった!!!!!!!
運命の再会である。
涙が出そうになった。
わからないと思うが、本当に涙が出るほど嬉しかった。
しかし、ここで涙を見せたら男がすたる。俺はど根性でこらえた。
そして、何度も銀行の女性に「サンキューベリーマッチ! サンキューベリーマッチ!」とお礼を言った。
すぐに携帯で新生銀行の緊急連絡先に電話をした。電話が繋がったので、ことの経緯を話し、カードの一時停止の取り消しをオファーした。
「わかりました」
よし、もうすぐだ。ところが、「ツー」と突然電話が切れた。
「え?」
何度かけなおそうとしても、電話自体がウンともスンとも言わない。
国際電話の料金がバカ高いということを計算に入れていなかった。
空港で買った3000円分のSIMカード。
国際電話なら3000円分なんて数分で使い切るということをまったく計算に入れていなかった。
実は俺はかなり金銭感覚がない。
離婚の原因の一つが「あなた、金銭感覚がおかしいからよ」だった。
俺は、元妻から言われたその言葉を思い出した。
しかし、なんとかしなければならない。ここはフィリピン、異国の地。冷静になって考えよう。
そうだ! 銀行の人に電話を借りよう!!
お金を引き出すことさえできれば、すぐにその場で電話代を払うことができる。ここでまた、英語力を試す絶好機がやってきた。
俺「ナウ アイハブ ノーマネー」
この一言で、明らかに彼女の顔色が曇った。そうだ、この国では本当にノーマネーのストリートに住む人たちがたくさんいる。明らかに態度が変わった。
俺「バット イフ ディスカード リカバー アイウイル キャッシュバック プリーズ レント ミー テレフォン」
「お金がないから電話を貸せ!」変な日本人が、変なこと言い出した、みたいな空気になった。しかし、空港で泣き叫んだときの俺とは違う。一週間勉強して変わったんだ。脳裏には「根性~根性~ど根性~泣いて笑って喧嘩して~♪」のBGMが流れていた。
俺はこの一週間で習った英語をフル活用して交渉を続けた。
しかし、国際電話は高い。「新生銀行なんか聞いたことない」の一点張りで全然貸してくれない。しまいには呆れて別の部屋に行ってしまった。
俺はブチ切れてこう言った。
俺「ディス プロブレム ハッペン バイ ユアーズ バンクズ エーティーエム! アーユーオーケー??」
奥の方から先ほどの女性が出てきて、「頼むから帰ってくれ!」的なことを言った。さらにごねてると、彼女が俺の首にかけている学校のカードに気づいた。
銀行員「アー ユー エングリッシュスクール スチューデント?」
俺 「イエス」
そう言うと、態度が一変した。
銀行員「プリーズ ギブミー ユアー カード」
カードを渡すと、学校に電話をかけ始めた。何が起きたのかわからないまま様子をみていると、彼女が電話の受話器をこちらに差し出した。言われるがままに電話に出ると、さとみ先生の声が聞こえた。
さとみさん「ごっつさん、銀行で国際電話を貸してと言っても無理ですよ」
俺 「でも、俺、今、一円も持ってないんですよ」
さとみさん「私が貸すので学校に戻ってきませんか? それからでも遅くないですよね? 私がお金を持って学校の前で待ってるのでタクシーで帰ってもらって大丈夫ですよ」
さとみさんから諭されるように言われた。なんか俺、とんでもなく場違いなことをしてたのかもしれない。
さとみさんに電話口でお礼を言った。銀行の人も「良かったね」って言ってくれた。本当は良い人なんだ。
路上でタクシーを捕まえ、学校に帰るとさとみさんが門の前で待っててくれた。タクシー代は行きと同じく2000ペソだった。
俺 「さとみさん、すみません。2000ペソ貸してください」
さとみさん「2000ペソ?」
俺 「え? 行きも同じ金額でしたよ」
さとみさん「ごっつさん、200ペソです。このメーターの少数点以下の数字はカウントしないんですよ」
俺 「え? 行きのタクシーの運転手さん、2000ペソ受け取りましたけど…。その次のタクシーでは1000ペソ払ったし……」
さとみさん「……」
俺 「……」
さとみさん「……これも勉強代です」
タクシー運転手のあの笑顔。
恥ずかしそうに目をそらしたんじゃなくて、ばれないように目をそらしたんだ。うん。金銭感覚も勉強しなくちゃ。
突然、あの声が聞こえてきて、俺は喰い気味にこう答えた。
「Are you Stupid ?(アホか?)」
「Yes!Sure.(はい、確かに)」
人間がたかだか一週間で変わるはずがない。
俺はさらにど根性で勉強する決意をした。
根性~根性~ど根性~ 泣いて笑って喧嘩して~♪
次号予告「英語漬けの日々にバツイチおじさんダウン寸前! セブ島篇初のマドンナ、ついに登場か!?」を乞うご期待!
1969年大分県生まれ。明治大学卒業後、IVSテレビ制作(株)のADとして日本テレビ「天才たけしの元気が出るテレビ!」の制作に参加。続いて「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ)の立ち上げメンバーとなり、その後フリーのディレクターとして「ザ!世界仰天ニュース」(日本テレビ)「トリビアの泉」(フジテレビ)をチーフディレクターとして制作。2008年に映像制作会社「株式会社イマジネーション」を創設し、「マツケンサンバⅡ」のブレーン、「学べる!ニュースショー!」(テレビ朝日)「政治家と話そう」(Google)など数々の作品を手掛ける。離婚をきっかけにディレクターを休業し、世界一周に挑戦。その様子を「日刊SPA!」にて連載し人気を博した。現在は、映像制作だけでなく、YouTuber、ラジオ出演など、出演者としても多岐に渡り活動中。Youtubuチャンネル「Enjoy on the Earth 〜地球の遊び方〜」運営中
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