プロレスはハードロック――フミ斎藤のプロレス読本#068【バンバン・ビガロ編エピソード3】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
あまりにもお下劣なシーンが多すぎてみんながいるところで観るにはちょっと、と週刊プロレス編集部で総スカンを食ったビデオ『コブラキラー3 刺青の掟』をやっと家に持ち帰った。
バンバン・ビガロが暴走族“ヘルス・フューリー”のボス、グースという役名で出演しているB級アクション映画だ。セリフもたくさんあって、ちゃんとお芝居をやっちゃっている。
ハルク・ホーガンを除けば、元プロレスラーで映画俳優としてそれなりに活躍しているのはジェシー・ベンチュラとロディ・パイパーのふたりだけだろう。
ビガロが『コブラキラー3 刺青の掟』(ジョージ・アーシュベイマー監督=カナダ)でみせた演技は、ベンチュラやパイパーに負けないくらいのグレードで、頭に彫り物をした暴走族のリーダーの太っちょ、という役柄はビガロにとってはひじょうにナチュラルなキャラクター設定だった。
主人公のジャック・ケリー(ロレンツォ・ラマス)は、海軍特殊部隊あがりで“ソルジャー”のニックネームで知られるロサンゼルス市警の敏腕刑事。
ビガロが演じるグース――出演者クレジットでは上から4番手のポジション――は、悪者だけれどどこか憎めない大男で、ケリー刑事に拳銃で足を撃たれ、苦痛に耐えられず組織の秘密をしゃべりまくり、ビールをたらふく飲まされたうえ、主人公が細工をしておいたトイレでおしっこをしながら感電死する、というかわいそうな役だった。
ビガロは、画面のなかで、ブルブルブルッと震えてバタンと倒れた。このシーンはかなりの名演技といってよかった。
「プロレスってのは子どもファンのためのものだ」という持論をビガロから聞かされたことがある。WWEへ行くべきか、新日本プロレスにとどまるかで、ビガロ自身がレスリング・ビジネスと自分の将来についてあれこれ考えていた時期のことだ。たしか、こんなことも話していた。
「6歳のときにオレの試合を観た男の子はもう10歳だろ。小学1年生だった少年がもう4年生だろ。そんな昔のこと、もうとっくに忘れちまってるだろ。まずいよな、そういうのは、やっぱり」
ビガロは、新日本プロレスで過ごした4年間、“バンバン・ビガロ”がアメリカのプロレス・シーンから消去されていた事実を認識しはじめていた。子どもファンから忘れられてしまったらプロレスラーはおしまいだ、と感じていた。
レスリング・ビジネスを根底で支えているのは、体育館のなかを走りまわったり、選手の体に触ろうとして警備員さんに怒られたりする、少年ファンたちなのだ、とビガロは考えている。
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