伝説の男テリーはテキサスのお父さん、ボーイズの親父さん――フミ斎藤のプロレス読本#076【テリー・ファンク編エピソード1】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
だれがそう呼びはじめたのかはわからないけれど、テリー・ファンクのニックネームは“リビング・レジェンドLiving Legend”である。
日本語に直訳すれば“生ける伝説”。生きながらにして伝説と化してしまった男、という定義づけがなされている。伝説とか神話とかおとぎばなしのたぐいには三次元的な時間と空間の制約はないが、生身の人間はやっぱりトシをとる。
テリーはもうすぐ53歳の誕生日を迎える。
“伝説”とは、どれだけたくさんの人びとのなかで生きたか、あるいはこれからも生きつづけるか、である。テリーのレスリングはセリフのないお芝居のようなところがある。
なにかを表現するとき、それはコトバによるコミュニケーションではなくて、体を使ったメッセージの伝達だから、わかる人にはわかるし、わからない人にはまったくわからない、潜在意識のなかでのさまざまな映像と記憶とのキャッチボールになる。
ふだん着のテリーには、伝説の男にふさわしい大河ドラマの登場人物のような家族がいる。妻ヴィッキーさんはテリーのよき理解者であり、最愛のタッグパートナーだ。
長女ステイシーさんと次女ブランディさんは、父親から“旅人”のエッセンスを受け継いでフライトアテンデントになった。子どものころ、テリーとおそろいのテンガロンハットをかぶってこの国を見学にやって来た娘さんたちは、ふたりともいつのまにかオトナになって、父テリーとはずいぶんタイプのちがう男性をパートナーに選んだ。
テキサス州アマリロにはファンク家の“ダブルクロス牧場”があって、テリーとヴィッキーさんは地平線の果てまでつづく広大な土地をながめながらグレート・テキサンらしくのんびりと暮らしている。
母親とふたりの娘さんたちは、だれがみてもすぐに親子だとわかるくらい顔だちもしゃべり方もよく似ている。お父さんとお母さんは、そのうちグランパとグランマになる。テリーの孫としてこの世に生まれてくるキッズは、伝説の男のことをまだなにも知らない。
“リビング・レジェンド”なるニックネームにはこれといったひねりはない。読んで字のごとく、というやつである。そんな決まりごとなんてどこにも記されていないけれど、テリーをよく知る人びとは“テリー・ファンク”を歴史上の人物というふうにとらえている。
プロレスファンの少年たちがそのままグロウンアップしたようなボーイズが集まっているECWのドレッシングルームなんかでは、テリーがその場にいるだけで空気がどことなくしっとりとしてくる。
よれよれになっても、しわだらけになっても、みんなの目のまえでリングシューズのヒモを結んでいるのはまぎれもなく本物のテリーである。
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