更新日:2022年11月20日 10:40
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ルイ・ヴィトン×シュプリーム コラボの裏で…小さなストリートブランドは潰されていく!?

「ルイ・ヴィトンとシュプリームのコラボは歴史をぬりかえる画期的な出来事でした。とはいえ、1万人以上の行列のほとんどが“にわかファン”。このままではストリートカルチャーが衰退していくのではないでしょうか」  そう警鐘を鳴らすのは渋谷でセレクトショップを運営するAさん。今回のコラボアイテムを求めて若者たちが1万人以上も行列を作った。だが、その裏には手放しでは喜べない理由があるのだという。 「シュプリームはかつて、ルイ・ヴィトンを“サンプリング”したアイテムをリリースしていました。今回は正式なコラボとなったことで、若者たちの熱狂を呼びました。一方で、私たちのような小さなストリートブランドに対しては、むしろサンプリングをヤメるように圧力がかけられており、潰そうとする動きがあるのです」 原宿・表参道

ストリートに根付く“サンプリング”の文化

「約4年ほど前からルイ・ヴィトンやコレクションブランドをサンプリングした洋服がトレンドになり、多くのストリートブランドからリリースされていました。当然ですが、そこから1~2年して圧力がかけられるようになりました」  そもそも、ファッションにおけるサンプリングとは。既存のデザインを引用・参考にしつつ、再構築して新たなデザインを生み出すこと。ファッションから音楽シーンまで含め、サンプリングをめぐる議論は世界各国で絶えない。しかし、こうした側面もあるという。 「諸説ありますが、かつてアメリカでは貧困層の黒人などが『成り上がりたい』『厳しい現実に抗う』などの反骨精神もあり、ブート(偽物)でも高級そうな金のネックレスやジュエリー、ハイブランドをモチーフにした洋服を身につけるようになりました」  もちろん、当時と現在、日本とアメリカでは根本的に背景が異なることからひと括りにしてはならないという意見もあるだろう。だが、どちらにせよ、サンプリングというカルチャーがストリートに根付いていることには変わりない。  作っている側としては、サンプリングのアイテムには、「デザインをこうしたらもっとクールだよね」というメッセージもあるのだとか。  こうした手法は、洋服のデザインを次のレベルへと引き上げていくために古くより業界で行われていることだ。もはやサンプリングなくして今のファッションを語ることはできないだろう。それほど重要な手法のひとつがサンプリングというわけだ。  実際にルイ・ヴィトンの代名詞とも呼べる柄が、日本古来の模様をサンプリングしていることをご存じだろうか。たとえば、モノグラム柄は家紋、ダミエ柄は市松模様がヒントになっていることはファッション業界ならずとも有名な話である。

歴史的コラボの裏で…ストリートカルチャーが失われる日も近い!?

 今年7月、ハイブランドのルイ・ヴィトンが人気ストリートブランドのシュプリームとコラボして、表参道に期間限定ストアをオープンした。徹夜組も含めて、1万人もの行列を作ったことが一般的なニュースとしても取りあげられた。両者のコラボは、それだけ若者たちにとって興味・関心の高い出来事だったと言える。ルイ・ヴィトンはともあれ、ファッションに疎い人でもシュプリームという名前ぐらいは聞いたことがあるのではないか。  しかしながら行列に並んだ若者のうち、「有名だから」「とりあえずシュプリームを着ていればイケてる」という“にわかファン”も少なくないという。 「いまでこそ一般人にも名が知れているシュプリームですが、もともとは’90年代にリアルなスケーターの間で広まった、いわゆるストリートブランド。以前は、ファッション業界の頂点にいるハイブランドからしてみると、表向きにはストリートブランドはまったく相手にする意味もないと思われていた部分があります。それが今回、ルイ・ヴィトンが“正式に”コラボしたことにより、存在価値を認めたことにもなります」  ルイ・ヴィトンといえば、前出のダミエ柄やモノグラム柄、イニシャルロゴが人気。正式にコラボする以前、かつてシュプリームはルイ・ヴィトンをサンプリングしたと思われるアイテムをリリースしたこともあった。今回の件により、一見すると、ファッション業界にストリートブランドが“正式に”認められ、カルチャーを押し上げているようにも思えるが……実際のところ、そうではないのだという。A氏が矛盾を指摘する。 「先日、私たちが売っていたルイ・ヴィトンをサンプリング・カスタムした商品が商標権の侵害で訴えられてしまいました。私たちだけではありません。ほかにもサンプリングアイテムを出しているブランドが軒並み警告を受けています。要するに、シュプリームなどの“有名な”ストリートブランドをのぞいて、まるでコピー業者扱い。いまストリートが一掃されようとしている。このままでは、ストリートの“サンプリング”という古き良き文化まで消えてしまうのではないか」
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シュプリームを押し上げるならカルチャーを許容・守ることも考えてほしい
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ライター・編集者。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』(共に彩図社)など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ【最新版】』(辰巳出版)がある。Twitter:@gold_gogogo

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