自衛隊が訓練するほど、騒音の反対運動が起きてしまうジレンマ
「自衛隊ができない30のこと 29」
海上自衛隊の中で最大級のいずも型護衛艦を改修し、離発着にかかる距離の短いステルス型戦闘機F35-Bを搭載して空母として運用してはどうかという話があります。その場合さらにパイロットの訓練が再度必要になると思われます。空母への発着艦は航空基地への着陸より難易度が高く、自由に空母へ発着できるにはかなりの時間数訓練が必要となるでしょう。空母艦載機の訓練も空母所有のために絶対不可欠な論点なのです。
固定翼(翼のある飛行機)と回転翼(ヘリコプター)で違いはあるのですが、航空自衛隊のヘリコプターが救難のために港の狭い突堤の上に着陸する動画を見たことがあります。「あんな狭い突堤への着陸はさぞかし難しいんでしょうね。」と海上自衛隊のヘリパイロットにきいたところ、動かない狭い平坦な場所への着陸より、海上を進み、波に揺られる艦艇(船)への離発着のほうが数段難しいですよ」という返事が返ってきました。突堤がヘリの自重に耐えられるかどうかという不安があるものの着陸の難易度だけの話なら船への着陸のほうが断然、難しいのです。艦艇への艦載機パイロットになるのは、ヘリの場合でもかなりの熟練が必要なのです。
いずも型護衛艦の空母への改修自体はさほど難しいものではありません。艦首にジャンプ台が必要という意見を聞きますが、強襲揚陸艦では平たいままF-35Bを運用していますから、そのあたりは問題とはならないようです。
でも、ここで気になることがあります。厚木基地訴訟などに代表される、全国の航空基地への騒音問題などに対する反対運動です。
米軍には横須賀を事実上の母港とする空母ロナルドレーガンがいます。このロナルドレーガンの艦載機はこれまでずっと厚木の米軍基地にいました。しかし、昨年夏頃から米軍再編があり、艦載機は岩国基地に異動することになりました。今年度後半には3800人の米軍、軍関係者が異動する予定となっています。戦闘攻撃機FA18スーパーホーネットなどもすでに岩国基地に移設されました。この異動には様々な要因があるのですが、厚木基地での騒音訴訟もその原因の一つです。
空母は入港するときに艦載機をぜ~んぶ陸上の航空基地に飛ばします。ある程度の速度がないと空母艦載機は船から飛び立てないからです。整備要員なども航空機の移動に合わせ、陸上の基地に移動します。そして、空母が作戦行動などで出港する際に整備要員などを艦に戻し、艦載機も陸上基地を飛び立って、空母に収容されるのが普通です。航空機が「飛べないまま空母の上にいる」状態をつくらないことが大切なのです。米空母艦載機は、空母が港にいる間にパイロットの技量を維持する訓練を行います。この「パイロットの技量を維持する訓練」、そこに厚木騒音訴訟が起きる要因があったわけです。
日本の空港は多かれ少なかれ騒音問題を抱えています。特に航空基地は、特別な(戦闘機などの)航空機が訓練を繰り返すため騒音問題が起きやすいのです。さらに、空母艦載機の場合は、特殊な事情があります。この特別な訓練とその騒音問題対処をどうするかも空母をもつために考えておかねばならないハードルの1つです。
「飛行機の訓練うるさい!」という訴訟で日本では未来の空母艦載機も含め、自衛隊航空機の訓練を差し止めができる可能性もゼロではないのです。自衛隊は軍ではなく行政機関です。航空基地まわりも一般の土地と同じように売買が可能な国ですから、仕方ないのです。憲法改正して自衛隊を軍にして、基地まわりの土地利用を規制するか、騒音レベルの基準を緩和するなどできればいいのですが、現状では対処は難しいのです。
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おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
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『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… |
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