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関係悪化で得をするのは日韓の政治家と中国。そのワリを食うのは日韓の庶民

日本は、韓国に対して1兆9404億円の黒字

世耕経産大臣

輸出管理上の優遇対象となる「ホワイト国」から韓国を外すと発表した世耕経産大臣

 日韓両政府の対立がエスカレートしている。経済産業省が7月1日に韓国向け輸出管理強化を発表したのに続いて、安倍政権は8月2日、「ホワイト国」除外を閣議決定した。  すると韓国の文政権はこれに猛反発、日本を「ホワイト国」(輸出管理上、優遇対象となる国)から除外することを12日に発表。さらに22日には日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を宣言。これに対して日本政府は8月28日、「ホワイト国」から韓国を正式に除外した。両国関係は、かつてないほど悪化している。  エコノミストの藻谷浩介氏は、現在の日韓関係の悪化について「非常に危険な状態にある」と警告する。
日本の対韓国黒字

日本は韓国に対して、観光や貿易等で約2兆円の黒字となっている(財務省「国際収支状況」’18年1~12月を基に作成)

「日本は、韓国に対して1兆9404億円の黒字です。日本の世界各国に対する黒字の中で、トップ5前後の数字をずっとあげています。 『韓国を懲らしめる』と言っているけれども、実は日本は自国の身内を傷つけているのです。日韓関係の悪化で得をしているのは、国内では対韓強硬姿勢の安倍外交にスカッとした人。  一方、韓国で確実に得をしたのは文大統領。日本の貿易規制のおかげで、韓国経済の低迷や支持率下落などの大ピンチを脱しました。さらには、韓国企業が調達先を日本から変更、受注が増えるであろう中国です」

日本メーカーは世界最先端企業との独占的協力関係を失う可能性

有機ELディスプレイ市場

有機ELディスプレイ市場は韓国企業が9割を占める。有機ELの製造に必要不可欠な「フッ化ポリイミド」の輸出管理強化を受け、韓国はどう出るか

 元経産官僚の古賀茂明氏は製造業への悪影響について「レアアース輸出制限に踏み切った中国の二の舞になる恐れがある」と警告を発する。 「2010年に尖閣問題での対日報復策として中国はレアアースの輸出制限をしましたが、使用していた日本のメーカーは代替ルートを探したり、レアアース使用料の少ない製品の開発やリサイクル技術を発展させたりして対抗しました。  こうして中国依存度を下げた結果、長期的に損失を被ったのは中国のほうでした。同じように今回の安倍政権の輸出規制強化で、日本のメーカーが大打撃を受ける恐れがあります」  また、対韓強硬路線を世界中に発信したことで、「日本のメーカーは世界の最先端企業との独占的協力関係を失う可能性がある」ともいう。 「例えば、サムスンに部品や材料を輸出している日本メーカーは、協業することによって技術的進歩を得ています。フッ化水素にしても、単純に純度を挙げれば良いというものではありません。  サムスンのどの製品向けには、どの程度のコストをかけてどこまで純度を上げるのか、不純物の成分は何がどこまで許容されるのかなど、新規製品開発に合わせて微妙な調整が必要。それが日本メーカーにとっては、他国企業と決定的に差別化するための技術的蓄積にもなる。  今後、サムスンが新製品開発をする際、『日本メーカーは危ないから、国内か日本以外のメーカーに乗り換える』と決断した場合、協業によって得られる技術進歩を日本メーカーは得られなくなる。  半導体分野ではサムスンが世界一で、有機ELではLGが世界一。日本メーカーが最高水準の部品や材料を作るには、最高水準の元請け会社がないとできない。安倍首相も世耕大臣も経産官僚も、韓国企業に日本のメーカーを育ててもらっていることを分かっていません」(古賀氏)  こうした事態が最先端の分野で起きかねないということだ。 「製造業の国際的協業でも日韓以外の部分、例えば、中国や台湾などと韓国との関係が強化されていくでしょう。もちろん短期的には韓国もダメージを受けるかも知れませんが、蚊帳の外で技術進歩から取り残される日本メーカーのほうが大打撃を受けるでしょう。対韓強硬路線は国益を損ねる一方、中国や台湾などを儲けさせることになるのです」(同)
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製造業界の本音は…
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ジャーナリスト。『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

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