新型コロナウイルス感染拡大の長期化に備えて、政府は国民に対して「新しい生活様式」を取り入れるよう、呼びかけている。「もう以前の生活には戻れない」と言われているが、収束した後の世界はどう変わってしまうのか。
中国に100兆ドル請求。日本も賠償を提訴できる!?
今回のパンデミックによる経済的損失を中国に賠償させようという動きがアメリカで広がっている。4月21日、ミズーリ州政府が同州の連邦地裁に中国政府や共産党を提訴。ほかにも、企業や個人から同様の訴訟が相次いでいるのだ。
このほか、イギリスやイタリア、ドイツ、エジプトやインドなどでも中国に対する損害賠償が提起されており『香港経済日報』によると、世界で提起されている賠償請求の総額は、100兆ドル以上(4月29日時点)で、中国のGDPの7年分に相当するという。
一方、日本では発生源に対する国民の怒りはあるものの、訴訟はいまだ提起されていない。では、日本も欧米のように中国に対して提訴できるのか。国際訴訟に詳しい加藤博太郎弁護士はこう話す。
「国際法上『主権免除』という原則が認められており、国家や地方政府、その代表者は外国の裁判権から免除されている。米国などでは、今回のコロナに限り中国を主権免除の適用除外にする動きもありますが、日本ではそこまではできないでしょう」
加藤博太郎弁護士
ならば、より現実的なのは情報の隠匿に加担したとして中国企業を訴えること。仮に勝訴すれば、その企業が日本国内に持つ財産を凍結・没収できるのだ。
「例えば中国のメディアやSNSがウイルスの実態に関する情報統制を行い、そのせいで損害を被ったという因果関係を立証できれば、それらの運営企業が持つ日本での資産や株式を差し押さえることは、極めて困難にしても理論的には可能です」
一方、中国人ジャーナリストの周来友氏は、「勝ち目のない裁判なんてやめたほうがいい」としながらも、中国からお金を出させるコツについてこう助言する。
「中国では、各国からの賠償請求を、1900年の義和団事件で欧米列強や日本から多額の賠償金を課せられたことになぞらえ『新8か国連合』と呼んで反発しています。人民に国辱の歴史を彷彿とさせる包囲網に対し、弱腰な態度を見せることはできず、米国に対して売り言葉に買い言葉の応酬をしています。
しかし、一方で『世界の反中感情は天安門以来最悪』と指摘する内部文書の存在も明らかになっており、国際社会での自らの立場を冷静に分析している。各国もお金が欲しいだけなら、中国政府の面子を潰さないよう『協力要請』という形にすれば、見舞金として支払う可能性もある。お金ならたんまり持ってるからね!」
ともかく、中国に非を認めさせることは困難なようだ。
<中国を提訴した国と州>
▼アメリカ(ミズーリ州)
「州や州民が数十億ドル、可能性としては数百億ドルもの経済的損失を被った」として州政府が中国を提訴。新型コロナに関し、行政として中国を提訴した初めてのケース
▼アメリカ(フロリダ州)
バイデン前副大統領の兄弟がアドバイザーとして携わる弁護士事務所が、国内外の1万人とともに6兆円の損害賠償を請求する集団訴訟を提起。主権免除のはく奪も検討
▼アメリカ(テキサス州)
元司法省検事のラリー・クレイマン弁護士は「生物兵器としてコロナウイルスを開発し拡散した」として中国や武漢ウイルス研究所職員を相手に20兆ドルの損害賠償を請求
▼ナイジェリア
検察官を含む法律家連合が「失われた多くの命と経済的な打撃、社会的混乱、国民の精神的な苦痛」に対する賠償として中国当局を相手取り2000億ドルを請求
▼エジプト
「新型コロナを生物兵器として開発し、流出させた」として同国の弁護士が10兆ドルの損害賠償を求め提訴。訴状は首都カイロにある中国大使館に届けられたという
【加藤博太郎氏】
弁護士。わたなべ法律会計事務所所属。慶應法科大学院修了。不動産投資法務、国際訴訟、投資詐欺救済法務などに携わり、多数の消費者被害などの救済を行っている
<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/時事通信社>