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稲川淳二、73歳。テレビの仕事を離れて「怪談ライブ」に全力を賭けるワケ

「始めた頃は『いつまで続くかな』と漠然と思っていましたが、最近では『何年できるかな』と意識が変わりましたね」  コロナ禍での開催となった28年連続となる怪談ツアーを終えた稲川淳二さん(73)は、笑って振り返る。 「もういつ死んでもおかしくないからね、その時がくるまでやり続けたい」
稲川淳二

タレント・怪談家の稲川淳二さん

 御年73歳、前人未踏の30年連続となる怪談公演を目前に控えるレジェンドは、なぜそこまでライブに強い意欲を持ち続けられるのか。その原点を聞いた。

失うものがあるうちに…55歳で「怪談」と本気で向き合う

稲川淳二 怪談ライブを始めたのは45歳のとき。それから10年後、稲川さんはラジオパーソナリティやワイドショーのコメンテーターなど、これまでのタレント活動で築いた地位を捨てて「怪談家」になったのは55歳のときだった。 「当時は東京と大阪のテレビ局にレギュラー番組がありましたから、稼ぎは悪くなかったですよ。55歳にもなると業界も長いし、かつてのADくんがプロデューサーになっているから仕事もすごくやりやすい。さらに私は大手プロダクションに入ったことは一度もないですからねぇ、あれしろこれしろと言われるわけでもない。お金もあるし、結構ラクに仕事ができる。幸せだったと思いますよ、居心地が良いじゃないですか(笑)」  それでも安定した立場を捨てた。その代わりに力を注いだのは、縁深い中野や三鷹のお寺や深川江戸資料館などで開催していた小規模の公演だった。 「芸能人や一般の方関係なく盛り上がっていたんです。当時は色々とありましたよ、お寺で怪談を話したときは、お坊さんが前列を占拠してしまったり(笑)。数年に渡ってファンの方が来てくださって、胸が熱くなるようなファンレターもいただいて嬉しかった。その感覚は滅多に得られるものじゃない。本当に貴重で大切なものだと思えたんですよ」 稲川淳二 収入が大きく減ることは分かり切っていた。だが、一度「辞める」と決めたからには、その決断が揺らぐことはなかった。 「テレビの仕事は、どれだけ盛り上がってもその場限りで終わってしまう。ある意味、無責任で刹那的だと感じていたんですよ。だから、怪談に本腰を入れることを決めたんです。良い怪談をみなさんに伝えられる状態にするのは、とにかく時間がかかるから、『じゃあテレビの仕事を減らすしかない』というなりゆきですよ」  まだまだ現役である年齢と、テレビの仕事が十分にある状態での決断にも意味がある。 「60歳を過ぎてテレビの仕事が少なくなったから『じゃあ怪談をやろうか』というのは、ファンにもこれまで一緒に仕事をしてきた方にも、すごく失礼な気がしていました。だから、体も動くし立場を捨てられるタイミングしかないと思ったんですね」  怪談家として本腰を入れた翌年の1994年には5時間のワンマン単独公演を実施。そして1995年には「MYSTERY NIGHT TOUR 1995 稲川淳二の怪談ナイト」と銘打った自身初の怪談全国ツアーが始まった。以来、現在にいたるまで1シーズンに50カ所以上も巡るツアーを連続で公演し続けている。

コロナによって公演内容を大幅変更。今だからこそ、楽しめる怪談を

稲川淳二「2020年の怪談はオリンピック仕様の最高のモノを用意していたんですよ。それに怪談ツアーの魅力である舞台セットも金閣寺みたいな派手な金箔を全面に張ったりして。まぁ、それは冗談ですが、コロナの影響で公演の開催自体も危ぶまれる状態になりました」  実際、公演予定だった会場の多くが中止となった。ただ、それでも流行のピークが過ぎた時期を中心に地方を含めて怪談ツアーを行った。「1人でも感染者が出たら中止」という条件を課し、対策を徹底したうえでの実施である。 「私自身、連続公演が生きがいなので『人生を端折る』ことは考えられませんでした。とはいえ、開催するならやるべきことは十二分にやらないといけない。だから、私は今年は一度も外を出歩いていないんですよ。怪談をまとめるうえで欠かせない、自分の足で話の破片を集める『心霊探訪』も行いませんでした」  ただ防止策を行うだけではない。コロナ禍ならではの演出に、こだわりや工夫を凝らした。 「いつもの舞台セットでは組立スタッフの三密もいいところですから、なるべく人手がいらないシンプルなデザインにしました。その代わり、斜幕に映す雲や月などの演出に力を入れ、結果的にこれが大成功。怪談の展開に合わせて変わる演出がお客さんの心を打ったようで、しんみりとした話ではいつも以上に鼻をすする音が多く聞こえました」
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ファンの姿勢に感銘を受けた
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WEBコンテンツ制作会社「もっとグッド」代表取締役。ライター集団「ライティングパートナーズ」の主宰も務める。オウンドメディアのコンサルティングのほか、ビジネス・社会分野のライターとしても活動

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●稲川淳二オフィシャルWebサイト
https://www.j-inagawa.com

●MYSTERY NIGHT TOUR 2021 稲川淳二の怪談ナイト
http://www.inagawa-kaidan.com

●YouTubeチャンネル『稲川淳二メモリアル【遺言】』
https://www.youtube.com/channel/UCwBwI0hGtHAp-ZPT_dR1_DA/videos

●ニコニコチャンネル
稲川淳二のファンと怪異があつまるチャンネル

https://ch.nicovideo.jp/j-inagawa
※2021年1月22日に開局
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