エバラ「プチッと鍋」誕生秘話。他社との「おひとり様」争奪バトル乗り越えて
寒さの身にしみる日が続き、本格的に冬の季節が到来している。そんな肌寒さを感じる日常に恋しくなるのが「鍋料理」だろう。体の芯から温まるような美味しい鍋を食べれば、心も体も自然と元気になる。まさに、寒い冬には何といっても鍋の存在は欠かせない。
近年では、家族団欒で鍋を楽しむのはもちろん、おひとりさまや少人数で鍋を囲むシーンも増えてきている。そんななかで、エバラ食品工業の「プチッと鍋」は個食鍋用に開発された鍋の素で、同シリーズは個食鍋売上げNo.1(インテージ調べ)を獲得する人気商品となっている。
まず、新たな鍋市場開拓に向けて2013年に「プチッと鍋」を発売した背景を渡邊さんへ伺った。
「1990年代はというと、ぽん酢やごまだれで味わう水炊きや寄せ鍋、もつ鍋といった和風の鍋が一般的でした。そこに、当社が1999年にボトルタイプの鍋物調味料『キムチ鍋の素』を発売したことで、家庭の鍋料理のイメージが大きく変わるきっかけになりました。2000年代に入ると、食品メーカーからはさまざまなフレーバーの商品が次々と市場に出回るようになり、鍋の味付けのバリエーションも増えていきました。
しかしその当時は、家族が揃わないと鍋料理ができないというお悩みがあったんです。加えて、希釈をせずにそのまま使うことができるパウチタイプの商品が台頭したことで、当社のボトルタイプの鍋物調味料は劣勢に立たされ、新たな鍋物調味料の開発が必要とされていた状況でした」
パウチタイプの鍋物調味料は、1袋あたり3〜4人前を想定した容量だ。
だが、ファミリー世帯ならちょうど良い容量である一方、一人暮らしや共働き世帯などにとってはどうしても余ってしまう。
もっと、多様なライフスタイルやニーズに合った鍋物調味料を考え、時代の流れに即した商品を出したい。
そう思い、開発を進めたのが「プチッと鍋」だったそうだ。
だが、2012年夏に他社から個食向けの鍋用調味料が発売されるという情報を入手。発売が遅れると新たな市場での優位性が失われるため、新商品開発のピッチを急遽早めたという。
「新規性があり、かつユニークで使い勝手がいい鍋物調味料を一刻も早く市場へ投入するために急いで商品化を行いました。小袋やスティックタイプも当初検討しましたが、ポーション容器の包材と出会い、開け方がわかりやすく目新しさも演出できることが決め手になりました。
そして、『1プチッと1人前』というキャッチコピーで打ち出し、食べたい分だけ使える利便性を訴求したことで、単身世帯や少人数家庭の鍋需要も取り込むことができたんです」
従来のように、家族が集う週末の食卓や、大人数でにぎやかに鍋を囲むシーン以外にも、平日のランチやひとり鍋といった新たな喫食機会の創出につながったのだ。
さらに液体調味料なので、鍋以外にも麺やうどん、炊き込みごはんなどさまざまな料理に便利に使えるのも、消費者の裾野を広げることに寄与した。
こうして冬場の鍋食需要が高まる季節以外にも、「プチッと鍋」を利用して料理を作る消費者が増えていったという。
今回はエバラ食品工業 商品開発三課長 渡邊哲也さんに、鍋料理のトレンドの変化や美味しい鍋を作るためのコツについて話を聞いた。
多様なライフスタイルに合わせた新たな鍋物調味料が求められていた
他社に「追いつき追い越せ」で早期開発に取り組んだ
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1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
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