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「『年収200万円で豊かに暮らす』は欺瞞」古谷経衡氏に発言の真意を聞いてみた

年収200万円を肯定する風潮に喝!

写真はイメージです

 宝島社が6月7日に出版した『年収200万円で豊かに暮らす』についての話題がTwitter上で盛んだ。書籍タイトルにある「年収200万円」がトレンド入りし、文筆家の古谷経衡氏も【年収200万で豊かに暮らせる事は「絶対に」ありません。200万円で豊かに暮らす事を強いているのなら、それは欺瞞であり、強権であり、詐術です。】と発言している。  今回、話題のもととなった本以外にも「年収200万円で生きること」をポジティブにとらえる書籍は世に氾濫している。書籍ではないが、SPA!でも「年収200万円で楽しく生きる」といった特集を組み、実際に“収入は低くとも精神的に充実した”人生を歩んでいる人がいるのも事実だ。今回、話題となった書籍以外にも「年収200万円で豊かに暮らす」系の本は世に溢れている。当然、需要があるから出版され続けるともいえるわけだが、こうした本が求められる状況について、改めて古谷氏に聞いてみた。 「勤労者の年収が漸減する中で、年収400万-500万くらいの『中堅』勤労者が、より下層の所得層を見て溜飲を下げたいという欲望があるためかと思われます。年収200万層の月収は約16万円です。実際には手取りはもっと低く13万円程度と思われます。雑駁な計算だとここから家賃に5万円、食費3万円、携帯ネット1万円、交通費1万円とひくと何も残らず、こういった層はカードリボ払い等の残債があるはずですので、このような書籍や雑誌を買う余裕はありません」

日本の衰退を予見すればこそのプロパガンダ説も

 年収200万の“少し上の階層”が読んでいると。 「人間は自分より悲惨な生活をしている人を見ると、安心します。自分の方がまだマシだと納得できるからです。自分の方がまだマシだとより下層を見て安心できれば、自らの辛い生活を肯定できるからです。他人の不幸は蜜の味とはよく言ったものです。もっと上の『中間上位』である600-700万円の年収層になると、年収200万円云々は家計規模感が違い過ぎて興味を持ちません。給与所得者の平均年収が430万円前後ですから、分厚いボリュームがあり需要が発生するものと思われます」  古谷さんのツイートで【「年収200万で豊かに暮らせます」というコンセプトの雑誌は、貴方に奴隷でいる事を強いるプロパガンダだ】という発言があります。仮にこうした「200万円でも豊かに」が時の政権のプロパガンダであった場合、そこには施政者のどういう思惑が隠されていると推察されますか? 「令和版所得倍増、官製春闘などとはよく言ったものですが、現在の日本で勤労者の所得をあげることは不可能です。人口が減少し購買力が低下している国に、投資をする馬鹿な民間企業はいません。投資による好循環が起こるのは、『投資のコスト<将来得られる利益』が想定される場合だけです。既得権を温存し、新興企業が自由に活動できる規制改革を行わないまま、20年以上縮小し続ける日本経済は、かつてのスペインやポルトガルといった覇権国の没落よりもさらに早いスピードで衰退する事は間違いありません。これを政権が十分承知しているからこそ『200万円でも豊かに』という思惑が生まれて来るのではないでしょうか」
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豊かさの定義と必要な所得水準
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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