知らない会社の花見に闖入 有名社長に小便入りビールを飲ませた!
― 週刊SPA!「平山夢明のどうかと思うが、面白い」 ―
花見と云えば乱交パーティーと昔っから決まっている春の乱ですが、知り合いが新入社員の頃、当然のように先輩から花見席の確保&盛り上げ役を命じられたわけです。で、彼は前々日から有休を取って五十人ほどが集まれる場所を取りまして酒莫迦が集まってくるのを待っていたのですね。で、宴もタケナワとなり、初っぱなからぶっ飛ばして呑んでいた彼はもうヘベのレケもいいところで便所に行ってその日何度目かのリバースをこいて戻ったところ、自分の席に知らない奴が座ってデカイ顔をして呑んでいる。
どう見ても歳も変わらない新入社員風なので歳を聞くとやはり、同じで新入社員だったんですよね。
聞けば全く花見の準備に参加していないという、これはよっぽどコネで入ったエライさんのセガレか何かかと思って尋ねると別に普通のサラリーマンの息子だという。念には念を入れながら何の関係もないタダの平社員だということを確認してから奴はキレたわけです。
まあ酔っていて躰も動かしたかったからという理由なんですが、その新人がトイレに行っている間にビールのロング缶に小便を入れて待ってたわけです。女子社員なんかもヒャアヒャア云いながら<ヨシナヨー>なんて喜んでいる。
それで奴が戻ってきたので小便ビールを注いで飲ませたわけですが、本人は気づかない。回りも面白くなっちゃって呑め呑めなんて云ってたら後で遅れてやってきていたおっさんが〈俺にも少し〉なんつって、そいつのコップを呑んじゃった。
さすがにその人は「む?」なんて少し変な顔をしていたけれど、知り合いはその顔を見て<ぐはっ!>と気づいたらしいんですね。<その人、当時、有名なラーメン屋の社長で……>そうなんです、奴は酔っ払いすぎて自分の会社ではない席に潜り込んでたんですね。周囲も社長が小便ビール飲んじゃったんで青ざめていたみたいです。
と、このような惨劇もありますし、なかには犬のウンコをホイルで包んで焼いて<焦げたタラコ><くさやのシラコ>などと云って、ぐでんぐでんになった同僚に喰わせるのもいるそうですから、素晴らしいものです。
先日も廊下から<死んだ亀の臭いがする><蛙が死んでいる>と生徒たちの訴えのあった学習塾の先生が塾のあるアパートの清掃おばさんに<なんか臭いですよ>と云ったところ、大家のおじいさんを呼んできたらしく、みんなで開けることになったそうなんですよね。で、臭いの元を辿ると確かに郵便受けに新聞が一杯溜まったままになってるし、臭いもひどい。<要は完全にアウトなんですが、それでも大家さんは外聞を気にしてか通報したがらない。それでマスターキーを使ってドアを開けたら、ますます臭いが強くなって……>声を掛けつつ、キッチンから奥の六畳、隣の部屋に入った途端、<ぎゃあー!って、おばさんが叫んで出て行っちゃったんです>見ると天井に打った鈎状のフックにロープを掛けておじいさんが首を吊ってたそうなんです、もう下は小便とウンチでべちゃべちゃ。
蠅が凄かったそうなんですが、大家が<け、けいさつ!>なんつって飛び出して行ったんで、彼もそのまま外に行こうとした時、袖が何かに引っかかった。振り返ると手が伸びているんだそうです。<白い顎髭にまで蛆がたかってぐしゃぐしゃ動いている首つりじいさんが掴んでたんです>。当然、彼は腰が抜けたのですが、<どうやら自作フックで天井板に穴を開けて首を吊ったのは良いのですが、天井板がたわんだのとロープの長さが絶妙だったためにじいさん足がほんの少しだけ着いて死んではいなかったみたいなんです。でも、ロープを外して逃げるだけの力はなかったみたいで……>
ほんと、いきなり最終回というのもどうかと思いますが、面白いモンです。
【ひらやまゆめあき】
61年、神奈川県生まれ。10年刊行の長編『ダイナー』(ポプラ社)が、第13回大藪春彦賞を受賞。精神科医・春日武彦氏との不謹慎世相放談『無力感は狂いのはじまり~狂いの構造2』も、扶桑社新書より絶賛発売中!
<イラスト/清野とおる 撮影/寺澤太郎>
『どうかと思うが、面白い』 人気作家の身辺で起きた、爆笑ご近所ホラー譚 |
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