Z世代は“「価値観」で形成される「選択可能」なもの”/竹田ダニエル・著『#Z世代的価値観』書評
―[書店員の書評]―
世の中には読んだほうがいい本がたくさんある。もちろん読まなくていい本だってたくさんある。でもその数の多さに選びきれず、もしくは目に留めず、心の糧を取りこぼしてしまうのはあまりにもったいない。そこで当欄では、書店で働く現場の人々が今おすすめの新刊を毎週紹介する。本を読まなくても死にはしない。でも本を読んで生きるのは悪くない。日刊SPA!で書店員による書評コーナーがスタート。ここが人と本との出会いの場になりますように。
ここ数年、1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代を指す「Z世代」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。関連書も多く刊行されているしマーケティング的にも注目を集めている世代だが、でもみんながどれくらい理解しているのかというと疑問だったりもする。今回紹介するアメリカ在住のライター・研究者の竹田ダニエル著『#Z世代的価値観』は、話題となった前作『世界と私のAtoZ』に続く、年齢問わずいろいろな人に向けたZ世代について書かれた読み応えのあるコラム集だ。
はじめに著者はZ世代について〈生まれた年月で区切られるものではなく、「価値観」で形成される「選択可能」なもの〉と記している。例えば日本ではバブル世代、団塊ジュニア世代など、年齢や時代の枠に当てはめてそれぞれの性格や嗜好を言いがちだ。一方で著者が読者へ訴えたい日常における考えや行動とは、一体どのようなものだろうか?
〈「仕事が人生の全てではない」という価値観が強まっている〉〈リアルでオープンであることを好む〉。このように著者はアメリカのZ世代の例を挙げている。また自分自身という存在を見つめ直し大切にするセルフラブ、メンタルケアなど、日本ではまだまだ馴染みが薄い話題も記されていてとても興味深い。さらに未来への不安や消費行動、現実社会やSNSなどで他人にどう見られているのか、見られたいのかという具体例もあり、いろいろ考えさせられる。しかしアメリカの出来事でも違和感なく読み進められるのは、上から目線ではなく一緒に学び体験しているような、著者の紹介の仕方が上手いからだろう。
著者と斎藤幸平(経済思想家)、SIRUP(ミュージシャン)、永井玲衣(哲学者)との対談も素晴らしい。現実から学び探求し合う斎藤、同志のような会話を繰り広げ合うSIRUP、日々感じ疑問に持つことに対して共鳴し合う永井、それぞれ三者三様でもどこか繫がっている。 筆者は特に、永井と学生とのエピソードが印象に残った。そのなかで学生が世の中に対して、考えていることや疑問の声を上げるとバッシングされるのではないか、と感じてしまう辛さや悩みを受けて、永井は次のように発言する。
〈正解はないのに間違いのある社会って、どれだけ苦しいんだろうと思います〉
この学生も含め、現代人にとってはインターネットの存在やSNSで交流するのが普通になっている。しかし多くの目に触れられるプレッシャーを無視してはいけないし、放っておいてもいけない。当たり前だが、大事なのは人との関わり合いを大切にしていくことだと思う。その意味で次の著者の書き手としての姿勢に触れてほしい。
〈現状に違和感を感じる人と言葉を共有すること、そして同調圧力を強制する社会と戦う気持ちのある人を鼓舞することなのではないか〉
自分の心地良い居場所を守るために、異なる意見を攻撃して悦に入るのは、褒められたことではない。それよりも苦しんでいる人がいるのなら、現状をより良い方角へ向けるために、どう考えどう行動をしていくのか、あらゆるすべての人でも意識を変えることはできるのではないだろうか。人間同士の関係は決して断絶するものではない。言葉と想いを尽くせば必ず繫がることができる。改めてこの本に勇気づけられる読者も多いはずだ。
評者/山本 亮
1977年、埼玉県生まれ。渋谷スクランブル交差点入口にある大盛堂書店に勤務する書店員。2F売場担当。好きな本のジャンルは小説やノンフィクションなど。好きな言葉は「起きて半畳、寝て一畳」
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