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上司のパワハラで“パニック障害とうつ病”を発症した新人OL。夜職を選んだワケは「稼げるし、優しい」

 ベストセラー『売春島』、話題の新刊『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』など数々のノンフィクションを世にはなってきたルポライターの高木瑞穂氏@takagimizuho2)。彼が新たなテーマに選んだのは、これまでタブーとされてきた「風俗と発達障害」だ(以下、高木氏寄稿)。

チャットレディ・華恋26歳(仮名)

華恋26歳

華恋26歳(仮名)

 東北地方の公立大学を卒業し、生まれ育った九州地方に帰省して職業訓練系企業でOLをしていた華恋(仮名、26歳)は、社会に出てわずか3ヶ月でその一般職を辞めてチャットレディになった。チャットレディ、言わずと知れた風俗関連業種である。パソコンとWebカメラを使用し、インターネットを通じて画面の向こう側にいる男性客をリアルタイムで満足させる疑似セックスがこの仕事の急所だ。  前回紹介した紗希(23歳)に続き、障害を抱える女性の多くがセックスワークに従事している現状を伝える一例としてSNSを通じて知り合った華恋に話を聞くことになった。だが華恋は、紗希のように軽度知的障害、ASD(自閉症スペクトラム)、ADHD(注意欠陥多動性障害)などの障害があるわけではない。  では、なぜ風俗の仕事に就いたのか。理由は職業訓練系企業のOL時代に上司から受けた、過度のパワハラだ。上司は華恋の細かなミスに対して、その度に大声で罵倒した。ミスを指摘するだけではなく、いちいち周囲に聞かせ辱めたのである。それが積み重なり、ついには通勤途中に風邪でもないのに熱が出るようになった。そうして上司はもちろん会社に対しても体が拒否反応を示すのだった。  容姿はキャバクラでも通用するレベルで、クリっとした目が可愛らしい華恋は、「熱も出るし、過呼吸にもなるしで」と言ったあと、すぐには続けず、「もう無理、ってなっちゃった」と、ポツリと言った。

うつ病、パニック障害と診断

 たまらず医者にかかると、「うつ病」と「パニック障害」だと診断された。早稲田メンタルクリニック・益田裕介院長は言う。 「うつ病とは、心身のストレスなどが原因で、慢性的な疲労状態のように、脳がうまく働かなくなっている病態のことをいいます。例えば眠れない、食べれない、やる気が出ず、死にたい気持ちになるというものから、寝過ぎたり、食べすぎたり、衝動買いをするなど自分をコントロールできないなど様々です」  さらにパニック障害は、身体疾患がないにも関わらず、「突然の動悸や呼吸困難、めまいといった発作を繰り返し、発作への不安から外出や乗り物への乗車が困難になる」(前同)という。「部下を指導しただけ」が上司の言い分で、何気なく繰り返されたのだろうが、パワハラはそれほどまでに華恋のカラダを蝕んでいたのだ。
益田裕介氏

益田裕介院長

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風俗は一般職より「稼げるし、優しい」
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月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』、『黒い賠償 賠償総額9兆円の渦中で逮捕された男』(ともに彩図社)、『裏オプ JKビジネスを天国と呼ぶ“女子高生”12人の生告白』(大洋図書)など。X(旧ツイッター):@takagimizuho2

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