高校卒業後すぐ売春をはじめた23歳女性「きっかけは母親への強い憎しみ」軽度知的障害と親族からの性虐待
ベストセラー『売春島』、話題の新刊『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』など数々のノンフィクションを世にはなってきたルポライターの高木瑞穂氏(@takagimizuho2)。彼が新たなテーマに選んだのは、これまでタブーとされてきた「風俗と発達障害」だ(以下、高木氏寄稿)。
2023年7月に出版した『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』の取材で、ホストへの売掛返済などを理由に大久保病院界隈で春を売る多くの街娼たちに触れてから、精神疾患や知能指数とセックスワークの結びつきの問題を真剣に考えるようになった。街娼たちは軽度知的障害や依存症、虐待などの家庭の養育問題を抱えること――ひいては生きやすさを求め性風俗に従事することを自ら望んでいる――あるいは余儀なくされていることを、取材を通じてあらためて思い知らされたからだ。
認知行動コンサルティングオフィス代表の岩野卓博士(臨床心理学)は言う。
「知能指数(IQ)が70以上85未満で,知的発達症(知的障害)と平均域のボーダーに当たる人は,統計的には日本に13%ほどいると言われてます」
さらに精神疾患に目を向ければその数は、約420万人だ(2017年、厚生労働省の調査より)。ちなみに精神疾患とは発達障害、パニック障害、適応障害、PTSD、うつ病、統合失調症、依存症など、気分の落ち込みや幻覚・妄想といった精神的な症状が出る疾患のことをいう。
複数の風俗店オーナーへの聞き取り調査では、実に在籍女性の約8割が「知的障害や何らかの疾患を抱えている疑いがある」という結果が得られた。しかし現状は、あくまで「肌感覚」でしかない。
当連載では、そんな女性の多くがセックスワークに従事している現状を、各種論文や当事者への取材、アンケートで可視化を目指す。そのうえで偏見や自己責任論に満ちたこの業界に対しての、世間の理解が深まればと考える。
果たして風俗はセーフティネットなのか。そして、精神疾患を抱える女性が風俗を選ぶのは、脳のメカニズムの問題か。それともホストクラブで作った売掛(借金)を入り口に搾取しているだけなのか。一般の会社のなかでは生きづらい女性たちが欠乏と承認を得られる場所をどうしたら作れるのか。それが風俗やホストクラブであっていいものか。
まずは、当事者たちの肉声を聞き、サンプル数を増やすことで前出の「肌感覚」を少しずつ確かにしていく。
今年10月某日――。X(旧twitter)のDMで取材を打診し、東京・新宿歌舞伎町のうらぶれた喫茶店で落ち合った細身で胸のあたりまで伸ばした黒髪が印象的な紗希(仮名、23歳)からは、事前に「私は軽度知的障害とASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)です」と聞いていた。障害者と言われればそう見えるし、そうした事前情報がなければ、あくまで「抜けてる子」という印象の女性だった。まずは取材を受けてくれた理由から聞いた。
精神疾患とセックスワーク
黒髪が印象的な23歳紗希(仮名)
月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』、『黒い賠償 賠償総額9兆円の渦中で逮捕された男』(ともに彩図社)、『裏オプ JKビジネスを天国と呼ぶ“女子高生”12人の生告白』(大洋図書)など。X(旧ツイッター):@takagimizuho2
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