ショック療法に近かった
そのような状況であっても、華恋は風俗を続けられた。心のなかでは、何度も『辞めようかな』と思っていたが、それでも華恋はその葛藤をなんとか押し切った。
風俗が「最後の砦」だと自分に言い聞かせていた。だから、他の選択肢を模索することはどうしてもできなかった。
――それで、風俗をやることで社会復帰ができたの?
「そうですね。いまこうしてチャットレディの内勤の仕事ができていますから。メンタルも昔よりは安定してますね。
私の場合はショック療法に近かったんだと思います」
――ショック療法?
「ブスって詰られたり、『休みたい』と告げても『とりあえず来い』って強い口調で言われて仕方なく出勤したりと、結果的に強制労働みたいな感じだったんですよ。でも、それが、昼職時代に受けたパワハラよりショックで乗り越えられたんです。 いわゆるアメとムチ療法で、そんなムチのなかにも『それでもあなたはよく頑張ってるよ』みたいに認めてくれる、昼職にはないアメの部分があった。実際、
初月でも15万円くらい稼げていて、叱られながらもやり方を覚えてた以降は
30万円、50万円とトントン拍子に給与が上がっていきました。だから続けられたのかなと思います」
――仕事をするなか「やりがい」を覚えた。それで「心の安定みたいなのが得られた」ってこと?
「得られましたね。というか、チャットレディの仕事は、とりあえずオッパイを出しておけば怒られることもない、みたいなところがあって。仕事は客のリクエストに応えて演じるだけだから、いい意味でも悪い意味でも自分で考えなくていいじゃないですか。うん、裸になればある程度は稼げるしそれに、怒られることもない世界なんです。他の仕事って、接客でも事務にしろ、ミスしたら怒られるのが当たり前じゃないですか。でも風俗は、たとえ失敗しても『ごめんなさい』で済むんです。
そこの責任の軽さが私的にはよかった。うん、『怒られたらどうしよう』というストレスがほとんどかったから続けられたんだと思います」
うつ病患者が、ある種の衝撃や身体的ストレスを与えられて症状が軽くなる。いまでは使用頻度が減ったとされるが、確かにはこのショック療法は華恋の病を好転させる効果があったらしい。
風俗業界の荒っぽさが、逆にプラスに作用した。
――なら、風俗に救われた、っていう思いがある?
「ありますね。ある、ある、ある、ある。こんな私でもやれるんだ、みたいな。ブスで、デブで、昼職もロクに務まらなかったのに」
そして前の紗希と同じく、「やっぱ1対1だから」と水商売ではなく風俗を選ぶ理由を華恋は語った。
「実はキャバもちょっとだけやったんです。けれど、やっぱりキャバは周りの目が怖くて。女の子もそうだし、お客さんもそうだし、黒服さんもそうだし。常に誰かに見られてるから、ヘマしたら怒られるんじゃないか、周りと比べられちゃうんじゃないか、という恐怖が常にあった。でも
風俗は自分ひとり。だから、何やっても自由だし、小さなヘマくらいなら何も言われないんですよ。そこはもう、気持ち的にぜんぜん違います」
――風俗はマンツーマン接客が基本の一方で、客は選べない。プレイする相手がどんな男性でもいいわけ?
「大丈夫。その不安よりも他の人といる不安の方が強い」
繰り返すが、いま華恋は、風俗を上がりチャットレディたちの出勤管理をする内勤の仕事に就いている。ライブチャットを運営する会社の上司が華恋の働きぶりを認めていて、チャットレディを辞めて最近できた彼氏を追い上京するという華恋を、東京支店のマネジメント側へと引き上げた。前日に嫌なことがあったりすると突然起こるパニック障害で家から出られなくなる症状は、準備しなきゃと思った瞬間に始まることもあるし、準備を終えて「今日は来れますか?」というスタッフからの連絡で始まることもあった。(後編へ続く)
<取材・文/高木瑞穂>
月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に社会・風俗の犯罪事件を取材・執筆。著書に『売春島 「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』、『黒い賠償 賠償総額9兆円の渦中で逮捕された男』(ともに彩図社)、『裏オプ JKビジネスを天国と呼ぶ“女子高生”12人の生告白』(大洋図書)など。X(旧ツイッター):
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