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『先生の白い嘘』騒動で露呈した“認識不足”。人気ドラマでも“茶化したような描写”が

『先生の白い嘘』公開日から1ヶ月以上が経った。7月5日の公開日にパンフレット販売延期がアナウンスされていたが、8月1日、発売中止が発表。どうしてこのタイミングだったのか? 公開日前日に掲載された監督インタビューが大きな火種となり、現在も議論が重ねられている。主演の奈緒が舞台挨拶で瞳を潤ませたことも各媒体が報じた。主演俳優が図らずも問題提起することになったのは、濡れ場を撮影する現場でコミュニケーションを担う「インティマシー・コーディネーター導入」についてだ。 この職業名は広く浸透しているとは言えない。そればかりか日本の映画界での認識不足を露呈させる出来事として出来してしまったのだ。イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、本作をきっかけとして今改めて理解を深めるべきインティマシー・コーディネーターの必要性について解説する。
『先生の白い嘘』

映画『先生の白い嘘』公式サイトより

『不適切にもほどがある!』での描き方は…

「え、あんたが? 見かけによらずスケベなんだね」 阿部サダヲ主演ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS、2024年)で、1986年から令和にタイムスリップしてきた小川市郎(阿部サダヲ)が、テレビ局のカウンセラー職を得て、相談にやってきたひとりの女性、ケイティ池田(トリンドル玲奈)に対して不躾に言い放った。 ケイティは、「濡れ場やベッドシーン専門のコーディネーター」であるインティマシー・コーディネーターだ。市郎にとって聞き慣れないどころか、日本でもこの職業名は流通し始めたばかり。昭和世代ごりごりの市郎が「インテリア、しっこ出ねーな」と正しく発音できないのはご愛嬌だが、ドラマ撮影現場場面での描き方はさすがに見過ごせないものがあった。

「濡れ場だけ特別」なのはどうしてか?

女性俳優のベッドシーン。市郎も監督の後ろに控えて見守る。男性俳優相手に女性俳優の素肌が露出する。女性俳優のマネージャーがすかさず「はい、デコルテ。デコルテ見えました」とまくし立て、インティマシー・シーンへの介入をケイティに促す。濡れ場撮影はなかなかうまく進まない。 マネージャーの仕切りに我慢できない監督が「マネージャーがカットかけんな!」としびれを切らす。その様子を見た市郎が「飯食うシーンとか、乱闘シーンとか、歌ったり踊ったりすんのと一緒だよ。何で濡れ場だけ特別なんだ?」と持論展開。 どうして特別かって、そりゃ俳優にとっては物理的にも精神的にも最も“親密な”(インティマシー)場面が濡れ場だからだ。ケイティは、しきりに鋭利な英語発音で「インティマシー・コーディネーター」と繰り返す。 どうもインティマシー・コーディネーターを茶化したような描写にしか見えなかった。
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熟慮の甘さが「不適切さそのもの」
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コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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