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最高視聴率81.4%だった「紅白歌合戦」はオワコン化したのか?過去との比較が不毛なワケ

Henry Saint John – stock.adobe.com

 今年も大晦日に『第75回NHK紅白歌合戦』(第1部午後7時20分、2部同9時)が放送される。放送後には世帯視聴率が発表され、1960年代、1970年代、1980年代などの数字と比較する向きがある。だが、それには意味がない。  NHKもそれが分かっているから、新旧の世帯視聴率を比べるようなことはしない。大ヒット曲の有無や国民的歌手の存否に関わらず、世帯視聴率はそもそも古い数字との比較に適さない。

世帯視聴率での比較には意味がない

 世帯視聴率の仕組みを考えると、それは容易に分かる。世帯視聴率とは「総世帯のうち、その番組を観ていた家の割合」。また「家族のうち誰か1人でも観ていたら、カウントされる」。だから家族の平均人数が多い時代ほど数字が高くなりやすい。  総世帯数と家族の平均人数は時代によって大きく変動する。だから昔の世帯視聴率と現在の数字を比べるのは不毛なのだ。比較が有効なのはせいぜい過去10年程度だろう。総世帯数と家族の平均人数がそう大きく違わないからである。  紅白が史上最高の世帯視聴率を記録したのは1963年の第14回。81.4%だった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。大トリは故・美空ひばりさんの「哀愁出船」。北島三郎(88)は初出場で、「ギター仁義」を歌った。  この紅白は故・梓みちよさんの「こんにちは赤ちゃん」や故・坂本九さんの「見上げてごらん夜の星を」など世代を超えて愛されるヒット曲が多かった。それでも、やはり現在の世帯視聴率と比較するのは無理がある。  1963年の総世帯数は約2289万戸だった。家族の平均人数は4.38人。それが2020年には総世帯数が約5331万と倍増。家族の平均人数は2.21人と半減した。前提となる条件がまるで違うのである。それなのに比較したら、統計学者は仰天するはずだ。  美空ひばりさんの「人生将棋」が大トリだった1970年の第21回の世帯視聴率は77.0%。故・八代亜紀さんが「雨の慕情」で締め括った1980年の第31回は同71.1%。森進一(77)の「おふくろ」で幕を閉じた1990年の第41回は同51.5%。一見、凄まじい数字である。

直近3回の視聴率は30%台前半だったが

 最近の紅白(2部)の世帯視聴率はMISIAの「明日へ 2021」が大トリだった2021年が34.3%。福山雅治(55)の「桜坂」で締め括られた2022年が35.3%。MISIAの「紅白スペシャル」がフィナーレを飾った2023年が31.9%だった。  これも比較するのは乱暴だ。1970年の総世帯数は約2256万で家族の平均人数は3.73人だった。1980年は約3582万世帯で家族の平均人数は3.25%。1990年は約4067万世帯で家族の平均人数は2.70人なのである。  2020年時点で総世帯数が約5331万、家族の平均人数が2.21人だから、前提条件が異なる。紅白の内容の良し悪しも世帯視聴率に多少は影響しただろうが、その数字の低下は家族の平均人数の減少とほぼ重なり合っている。  ほかにも近年の紅白の世帯視聴率が昔より低い理由がある。紅白が高齢者を重視していないからである。数の多い高齢者を重んじないと、世帯視聴率は決して上がらない。  65歳以上の高齢者が家族にいる世帯の割合は1980年には全体の24.0%に過ぎなかった。1990年も26.9%だった。それが2021年には49.7%に達している。1990年の約2倍だ。総世帯の約5割を占める。  高齢者は人数も多い。1970年は約733万人、1980年は約1065万人、1990年は約1493万人だったが、2022年には約3627万人と2倍以上になっている。総人口の29.1%だ。高齢者が観ないと、世帯視聴率が上がらないわけだ。  このため、『相棒』(テレビ朝日)のように高齢者が好みがちな刑事ドラマは世帯視聴率が高くなりやすい。逆に『ミュージックステーション』(同)のように若い世代には人気があるものの、高齢者の支持が薄い番組は世帯視聴率が低くなる。  15~39歳は1970年には約4439万人いた。これが2018年時点で約3309万人にまで激減している。数の少ないから、若い世代向けの番組は構造的に世帯視聴率が上がりにくいのである。
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高齢者向けの歌手を増やさないという判断
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放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

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