更新日:2013年03月05日 14:50
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海賊はロケットランチャーをタンカーに向けた【ソマリア海賊裁判傍聴記】

ソマリア海賊裁判「ぎゃっ!! ソマリア海賊の裁判が始まっている!!」  1月16日未明、深夜に帰宅した筆者は夕刊紙をチェックしていて思わず大声を上げてしまった。事情により週末に新聞が読めなかったせいで、もう足かけ3年も追っていた裁判の初日を、傍聴券の抽選も受けずにやり過ごしてしまったのだ。普段は週刊SPA!の編集者だが、実はソマリ語国際放送「ホーン・ケーブル・テレビジョン」(HCTV)の東京支局のボランティア・スタッフとしても活動している筆者としては、大チョンボである。  2011年3月5日、遠くアラビア海で商船三井のタンカーを襲った海賊のうち4名が米海軍により拘束され、東日本大震災の翌々日に日本に連れて来られた。ソマリアの海賊たちを裁判員裁判で裁くという、なんとも「市民感覚」から離れた裁判に注目して、2011年11月4日に以下の記事をアップしたのだが……。 ※ソマリア海賊初公判「1991年12月生まれはソマリアでは何歳ですか?」
https://nikkan-spa.jp/85970
 HCTV東京支局長の辺境作家、高野秀行氏にどやされる覚悟で「ソマリアの裁判の第2弾、昨日から始まってました……」とメールをし、朝を迎えるやいなや押っ取り刀で裁判員裁判2日目を迎える東京地裁に向かったのであった。 ◇ ◇ ◇ ◇  くどくどと前置きが長くなってしまったが、本日の公判では検察側の証拠取り調べにより2011年3月5日の海賊によるタンカー襲撃の詳細が明らかになった。公判では船長、一等航海士、機関長の証言が読み上げられたが、それらを総合すると以下のような状況だったようだ。  襲われたタンカーの名は「グアナバラ号」。24名の乗組員を乗せ、アラビア海のソマリア沖の海賊頻出海域を時速14ノットで航行中だった。  16時より少し前にグアナバラ号の一等航海士がレーダーに何かが映ったのを確認。左舷に約8マイル離れたところに船影があり、双眼鏡で確認したところ、漁船だった。  16時頃、一等航海士はグアナバラ号の右側に、本船に向かってジャンプするように勢いよく走ってくる小型のスピードボートを発見。ソマリアの海賊は母船からスピードボートで襲ってくるという情報を知っていたので、一等航海士は船長に報告。船長は関係各所に連絡しつつ、非常ベル、船内放送で船員に警戒態勢を取るように指示を出した。  後に判明するが、全長5メートルほどのスピードボートには6名の海賊が乗っており、うち2名がライフルを持っていた。そこで、船長の指示の下、トリックワイヤーと呼ばれるヒモで、相手の船のスクリューを絡ませて停船させようとするが失敗。事前に用意されていた海賊対策マニュアルに従い、監視役の2名を除く全員が機関室に集合。船のコントロールをそこで行い、ドアを鉄板で溶接して籠城するような形になった。  一等航海士ともう1名は「ファンネル」と呼ばれる船の煙突部分にハシゴで登り、海賊船とスピードボートの監視を努めることになった。海賊たちは空に向かって威嚇射撃をしてながら左右に移動すると、スピードボートが一級航海士の視界から消えた。スピードボートには6メートルほどの、先端がカーブしたパイプ製のハシゴが積まれており、海賊たちはそれをひっかけて船内に侵入。もう一度スピードボートが視界に入ったときは、ボートには2名しか乗っておらず、4名が侵入したらしい。  一級航海士は、これまでの恐怖からデジカメを所持していたことを失念していたが、2名になったボートの撮影を開始。すると、ボートの中央に残り、どうやら乗船していた海賊たちに指示を出していた男が、おもむろにカバーを外してロケットランチャーをファンネルに向けたという。「殺される」と思った一級航海士は、これ以上の撮影をすることができなかった。  船内では海賊たちがさまざまなドアを破壊し、ブリッジ右舷のドアから居住部に潜入。しかし、機関室のドアを開けることができず、船のコントロールを奪えなかった。  ファンネルにいた一級航海士はVHF無線で米海軍と連絡を取っており、翌3月6日に米海軍により救出されたのである。  いやはや、まるで映画のような壮絶な話である。機関室に集まっていた船員たちは押し黙り、中には泣く者もいたらしく、船長は敢えて平静を装い、室内を歩いたり、ときには冗談を言ったりしていたそうだ。だが、「もしも、次に同じ海域を航海しろと命じられたら、退社する」と証言しており、心の傷は大きそうだ。  ちなみに今回、グアナバラ号が受けた「不稼働損失」などを含む損害額は6814万円となるそうだ。  では、今回裁判を受けた海賊たちの人となりはどのようなものだったのか? ⇒【後編に続く】海賊は大便を頭になすりつけた
https://nikkan-spa.jp/370544
取材・文/織田曜一郎(本誌兼「HCTV」東京支局ボランティアスタッフ)
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