更新日:2013年10月31日 12:46
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タイのスラム「クロントイスラム」を歩いてみた

 ガイドブックに載らない世界の“危険地帯”に突入し、修羅場を繰り広げることで知られる「日本一危険な旅行作家」・嵐よういち氏。邪悪な現地人とのガチンコ対決、アジア人差別や犯罪に巻き込まれる様子が赤裸々に描かれた旅行本『海外ブラックロード』(彩図社刊)はシリーズを重ね、ロングセラーとなっている。
クロントイスラム

クロントイスラムの入り口

 また世界のスラムについても詳しく、インドやアフリカ、南米などの多くのスラムで体当たりの取材を続けてきた。  現在マダガスカルに上陸し、荒々しい旅路を新たに開拓中の嵐氏に、旅程の通過地点となったタイのスラム「クロントイスラム」についてリポートしてもらった。 ◆スラム特有の雰囲気はあるが、住民は挨拶を返してくれるし比較的安全  ’90年、タイのバンコクに最初に訪れて以来、訪タイは11回を数える。バンコクの『クロントイスラム』を訪れるのは3年半ぶりになる。ここに行くことになったきっかけは、タイ・インド・アフリカなどのスラムを巡る単行本の企画だった。今回は所用でタイに立ち寄ったついでに、スラムの変化を見てみようと思った。  クロントイスラムはタイでも有名な巨大スラムで、日雇いの湾岸労働者や麻薬中毒者が多く住み、治安の悪さはバンコク一といわれている。夜になると麻薬の取引も行われているという。地下鉄クロントイ駅から大通りに沿って歩いてみた。雨上がりの為、地面からは不快な熱気がムンムンと上昇してくる。
クロントイスラム

建物と長屋のコントラストが奇妙だ

 しばらく行くと歩道橋があり、渡るとそこがスラムだ。一歩足を踏み込むと、串焼きとラーメンの屋台が目に入った。焼き鳥を1本買ってみる。1本10バーツ(約30円)で味は普通だ。焼き鳥を頬張りながら進んで行く。私は世界中のスラムを歩き回ったが、ここはごく普通の東南アジアの貧しい路地裏に感じられる。  住民に微笑みながら挨拶すると「サワディーカップ(こんにちは)」と返ってくる。バラックやトタン屋根などの非常に貧しい家もあるが、比較的安全に街を歩けるのはありがたい。  例えば、ナイロビのスラムはガイド兼ボディガードがいないと撮影は不可能だし、南米もガイドなしで歩いていたらすぐに襲われてしまうだろう。スラム内には学校もあるし、マンションも建てられている。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=523395  ちなみに前回来たときは歩き周っているうちに迷ってしまい、行き止まりになった。そこには洞窟があり、家族が住んでいた。入口では非常に怖い顔つきの男が二人、不審そうに私を睨みつけていた。いつもならここで絡まれてすったもんだの展開になるが、さすがに場数を重ねた私はバカな旅行者を装いわざとヘタな英語で「駅はどこですか」と聞いた。すると男達はなんだ、そんなことかといった様子で「あっちだ」と教えてくれた。その場所に再び行ってみたが、洞窟はあるものの、既にそこは物置に取って代わられていた。
クロントイスラム

開発が進むタイの中心街。スラムだけが取り残されたままだ

 わずか3年半の間にバンコク中心街は先進国並みに発展し、ショッピングモールが立ち並び、交通の便もどんどん良くなってきた。空港からのモノレールが開通し、屋台群が消えて小奇麗なレストランが建ち並んでいる。  だがクロントイスラムだけ、時が止まっているかのように変わっていなかった。観光客に見向きもされない場所は、政府や市・投資家は相手にしないのだろう。  世界中のスラムを見てきた私だが、都市との落差が急速に開いていくタイの様子には驚くばかりであった。 <文・写真/嵐よういち>
旅行作家、旅行ジャーナリスト。著書の『ブラックロード』シリーズは10冊を数える。近著に『ウクライナに行ってきました ロシア周辺国をめぐる旅』(彩図社)がある。人生哲学「楽しくなければ人生じゃない」
海外ブラックロード スラム街潜入編

潜入して見えてきた現実とは!?

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