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渦中のウクライナで市民の日常を捉えた日本人写真家。工作員と疑われたことも

「ウクライナにいたときは、ずっと緊張状態が続いていました。東京に戻ってからは、急に現実感がなくなってしまったと言いますか……逆にストレスを感じています」    都内某所の中古カメラ店。なかなかお洒落な雰囲気で、若い女性客の出入りも見られる。店内を覗き込むと、店主の男性と目が合った。  おかえりなさい、大変だったでしょう——筆者がそう声をかけると、冒頭の言葉が返ってきたのだ。
防弾ヘルメット

鉄製の防弾ヘルメット。重量がかなりあるため、本当に危険な場所以外では使用しないという

 兵庫県出身の写真家・児玉浩宜(こだま ・ひろのり)さんは、戦時下のウクライナに個人で赴き、56日間に渡って現地の人々を撮影&インタビューを行ってきた。その様子をTwitterやInstagram、noteなどのSNSで発信している。  そんな児玉さんがウクライナで見てきたリアルとは?

戦時下のウクライナで一般市民のポートレートを中心に撮影

ウクライナ

「ここが故郷だから、もう離れたくないって思ったよ」と話す24歳の男性。写真は、児玉浩宜さんのInstagram(@kodama.jp)より

「前職ではNHKの報道カメラマンをしておりました。いまは商業写真の仕事にはあまり興味がなくて、個人で活動しています。写真家としては自分の興味・関心がある事や人を撮影しているのですが、最近では東京・日本橋から青森まで繋がる国道4号線沿いにポートレートや風景を撮っています。2019年から2020年にかけては香港民主化デモを撮影していましたね」  そんな児玉さんは、今回なぜウクライナに行こうと考えたのだろうか?   「ベトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争などは、“過去の記録”からしか事実を知ることができないじゃないですか。最初からウクライナの現場に行けば、歴史の証人になれる。単純にそう思ったのです。  2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まって、日本の報道機関や海外メディアの動向を調べて『これは入れるんだな』と確信し、すぐに行こうと決意しました」    ウクライナ入りした児玉さんの写真は、一般市民のポートレートが多い。理由はあるのだろうか。 「自分にしか撮れない写真は何かと考えました。ドンパチ映像や悲惨な写真は、すでに他の人が撮っている。ウクライナ軍の搭載カメラや個人のスマホには絶対に勝てない。それならば、人物に焦点を絞ったポートレートにしようと思いました。  自分自身、これまで戦争はニュースで見たり調べたりしても、深く考えてはこなかった。だからこそ、戦争をまさにいま経験している人たちに自分は正面から向き合うべきだと思ったんです」

工作員と勘違いされたことも…

領土防衛隊

領土防衛隊の兵士たち。写真は、児玉浩宜さんのInstagram(@kodama.jp)より

 とはいえ、苦難の連続だった。児玉さんはウクライナの地方都市を周ったのだが、東洋人がほとんどいない場所。不審者扱いを受け、市民からは通報されてしまう。警察と軍からは数え切れないほどの職質の嵐。警察署で3時間拘束された経験も……。 「身分証明書の確認はもちろん、撮影した写真を見せて、都合の悪いものは削除を求められました。酷いときは、地方駅のベンチで電車待ちをしていたら2時間で6回も職質を受けました。ただ、ロシアのスパイや工作員を警戒しているウクライナにとっては当然のことで、しかも開戦して間もない時期だったので尚更ですね」    児玉さんは他のウクライナ入りしているカメラマンが追うような戦争写真を撮らないぶん、とんでもないトラブルに遭うことがある。   「自分が悪かったと思いますが、危なかったのはキーウ(キエフ)の橋の下にあるスケボーパークでの出来事ですね。誰もいなかったのですが、写真を撮ろうとしたら兵士に囲まれました。橋の下は工作員が爆弾をしかける可能性があるということで。僕に工作員の疑いがかけられたみたいです。  兵士たちは銃を出して、安全装置も外してきました。さすがに撃たれると思って怖かったです。向こうからしてみたら何もない橋の下にいるなんて意味不明ですよね」
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“空襲警報慣れ”を実感
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旅行作家、旅行ジャーナリスト。著書の『ブラックロード』シリーズは10冊を数える。近著に『ウクライナに行ってきました ロシア周辺国をめぐる旅』(彩図社)がある。人生哲学「楽しくなければ人生じゃない」

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