人間とコンピュータの戦い再び 第3回「将棋電王戦」第1局観戦記
―[電王戦3]―
2014年3月15日、将棋のプロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する団体戦『第3回 将棋電王戦』が、東京・有明コロシアムでついに開幕した。先鋒戦となる第1局は、若手屈指の強豪棋士である菅井竜也五段と、昨年11月に開催された『将棋電王トーナメント』5位の「習甦(しゅうそ)」の対決だ。
1年前の2013年3月から行われた『第2回 将棋電王戦』は、プロ棋士が史上初めてコンピュータに敗れたことが大きな話題となり、団体戦の成績も1勝3敗1引き分けとプロ棋士側の負け越し。この『第3回』は、プロ棋士がなんとしても人間の意地を見せたい流れのなかでの開催となった。
先手となった菅井五段は、若干21歳の若手だが、将棋の天才たちがひしめくプロのなかで6割を超えればトップクラスと言われる通算勝率が7割を超えている。通算勝率7割というのは、166人いる現役のプロ棋士のなかで、あの羽生善治三冠を含め、たったの4人しかいない(通算50局以上)。この事実だけでどれほどの強豪かわかるだろう。大和証券杯ネット将棋・最強戦での優勝経験もある。
対する後手の習甦は『第2回(※)』でも開幕戦に登場。阿部光瑠四段に対し、コンピュータ側で唯一の黒星を喫したという苦い思い出がある。今回も負けてしまっては、弱いソフトという不名誉なレッテルをはられてしまう。こちらも負けられない大勝負である。
※プロ棋士が解説「第2回将棋電王戦」初戦で人間が勝てた理由
https://nikkan-spa.jp/409911
なお、今回の『第3回』からルールにいくつか変更がある。特に、ハードウェアに統一のもの(ハイスペックなデスクトップ1台)を用いるということ、および持ち時間を4時間から5時間に変更して30分の夕食休憩を入れるという2点は比較的大きな変更だ。
ともに人間側に有利な変更といえるが、そもそも習甦は『第2回』でもマシン1台だったので、少なくとも本局には大きな影響はない。また『第2回』では、ちょうどおなかが空いて一息入れたいころに対局が終盤を迎えることが多く、疲れも空腹感もないコンピュータに対して人間側の条件が少し悪かったので、持ち時間を少しだけ長くして対応するのはフェアな変更であろう。
また前回は全5局とも、プロの養成機関である奨励会の三浦孝介初段がコンピュータのかわりの代指しを務めていたが、今回はなんと株式会社デンソーが持つ技術の粋を尽くしたロボットアーム「電王手くん」が登場。絵的にも人間とコンピュータの戦いらしくなった。
さて、菅井五段といえば「振り飛車党」(※)の研究家として知られ、『菅井ノート』という名著もある。『第2回』は全局が居飛車の将棋だったので、本局ではコンピュータを相手に最高レベルの振り飛車の将棋を見たいというファンの期待が集まる対局でもあった。
※将棋の戦法は大きく分けて「居飛車」と「振り飛車」の2種類があり、プロは「居飛車党」が多く、アマチュアには「振り飛車党」が多い。これは振り飛車が居飛車より王様の囲い方がわかりやすいが、プロレベルでは勝ちにくいことが原因と言われる。もちろん、菅井五段の場合は通算勝率7割の振り飛車なので例外の特別製だ。
そして実際の対局は、そうしたファンの期待にこたえるように振り飛車の将棋(先手中飛車)となった。もともと菅井五段は早指しが得意で、普段の対局でも序盤にはあまり時間を使わない。習甦のほうも定跡データベースに該当する部分はすぐに指してくるため、対局開始から指し手はテンポよく進む。
控室では「(習甦は)穴熊じゃないんだ」「意外と古い形にするなあ」といった声が上がる。居飛車側が現在の振り飛車を相手にする際に最も有力といわれる戦法は、王様を将棋盤の端のほうに寄せてとにかくガチガチに固める穴熊だ。しかし、習甦は少し珍しい金銀が盛り上がっていく形で、ラグビーのスクラムのような「厚み」で振り飛車側を上から押しこむような戦術を採用したのだ。
とはいえ、事前に貸し出された習甦と練習対局をくりかえしていた菅井五段にとって、それほど意外な展開ではなかったのか、その後も指し手はどんどん進み、昼食休憩に入る頃で34手目。休憩後には両者の歩がぶつかって開戦というところだ。
⇒続き「習甦、完勝。決め手「評価関数」の改善にあり【観戦記後編】」 https://nikkan-spa.jp/609459 ⇒【画像】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=609644
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