電王戦大将ソフト開発者、結婚資金100万円を賭けて対決
―[電王戦3]―
3月1日、2日、8日、9日の4日にわたってニコニコ生放送で放送された「電王ponanzaに勝てたら賞金100万円!!」は、タイトル通り、将棋ソフトであるponanzaに挑戦して勝ったら100万円がもらえるという太っ腹なイベントだ。昨年の『第2回 将棋電王戦』の前に行われた同様のイベントでは3人も勝利者が現れ、ニコ生スタッフが絶望の淵に沈んだのも記憶にあたらしいところ。
※GPS将棋トライアルマッチで300万円放出 ニコ生運営「想定していなかった」https://nikkan-spa.jp/403267
通常のponanzaはデスクトップのハイスペックなPCで動かすのだが、このイベント時にはノートパソコンで運用されることが事前に明かされていた。もしも本番の電王戦の前にアマチュア(※)が本気構成のponanzaに勝ってしまったら本番の意味がなくなってしまうし、かといってまったく誰も勝てないくらいponanzaが強くても番組としてつまらなくなるので、その間のバランスを取って配慮したというところだろうか。
※この企画にはプロ棋士、女流棋士、プロの養成機関に所属する奨励会員は参加できないルールになっている。
「結構いいスペックのノートなんですけど、やはりデスクトップと比べると同じ時間に読む手の数は半分くらい、強さを示すレーティングだと100~200くらい落ちます。ただし、これはコンピュータを相手にしたときのレーティングなので、対人間でもそのまま当てはまるわけではないです」(「ponanza」開発者・山本一成氏)
またこのイベントでは、それぞれ20分の持ち時間を使い切ると負けになる「切れ負け」のルールも採用されていた。これは放送時間内にできるだけたくさん対局できるようにする配慮からであろうが、やはり制限時間が短いのは人間には不利。コンピュータはほとんど時間を使わずにミスなく指すことができるが、人間は駒を操作するのにも数秒かかる。
このように、挑戦者にとって有利な点と不利な点の両方があるルールだったが、事前の筆者の私見では、昨年と同様に全国から歴戦の猛者たちが160人あまりもやってきたら、さすがに1人か2人は100万円をゲットできるのではないかと考えていた。実際、山本氏やニコ生スタッフも同様の見解だった。
「正直、無理だとあきらめています(苦笑)。いやあどうしよう……」(山本氏)
「1人目の100万円は山本さんが出してくれるので、2人までは耐えられるかもしれないですが、3人目超えたら……」(ニコ生スタッフ)
ちなみに今回、最初に勝った挑戦者には、山本氏が『将棋電王トーナメント』で手にした優勝賞金250万円から100万円が贈られることになっていた。つまり株式会社ドワンゴの負担は2人目以降からだ。そのかわり、もし誰もponanzaに勝てなかったら、全勝ボーナスとして20万円が山本氏に進呈されることになっていた。しかし、どう考えてもこれは山本氏にとってハイリスク・ローリターンな取引である。
「もちろん山本さんからのご提案です。こちらからそんなことお願いできないですよ!」(ニコ生スタッフ)
どうやら完全に山本氏の勇み足だったようだ。そもそも優勝賞金の250万円は、婚約者との結婚資金にすると宣言していたはずなのだが……まるで福本伸行のマンガのような展開である。結局このような経緯もあって、今回の100万円チャレンジは将棋の内容もさることながら、山本氏が全国のアマ強豪たちから結婚資金を守り切るのかも大きな焦点となった。
「(婚約者に)すごく怒られて。ノートパソコンだというのが伝わってなかったのがマズかったです……」(山本氏)
◆ponanza山本氏は結婚資金を守り切れたのか!?
とにかく注目は初日だった。ノートパソコンのponanzaにアマ強豪たちがどの程度戦えるのか。20分切れ負けという持ち時間の設定が実際のところどうなのか。もしこれがユルい設定だったとしたら、いきなり100万円連発もありうる。
「怖いですね……さすがにノートじゃ弱いってことになったら、昨年みたいにデスクトップに変えても視聴者の方は許してくれますよね?」(ニコ生スタッフ)
だが、そうした心配は杞憂に終わった。初日はponanzaの全勝。最後に登場した自称・初心者氏(実際は某大学将棋部のエース)があと一息で勝てそうだったが、最後は時間が足りず惜しくも勝ちを逃した。
「千日手指し直しで研究していた横歩取りになって、勝てそうな局面もあったと思ったんですが」(初心者氏)
2日目、そして週をまたいだ3日目もponanzaは安定して力を発揮。昨年100万円を獲得したアマ強豪や元奨励会員、有名大学将棋部のメンバーやOB、全国大会優勝経験者、真剣師、はては小学3年生のお子さま(すでに道場3段の腕前)まで、あまたの強豪の挑戦をはねのけていくponanza。2~3局ほど不自然な指し回しで劣勢になる場面もあったが、最後は結局持ち時間が足りず人間側が力尽きるという展開のくり返しだった。
そこまで見ていた筆者の見立てでは、中盤で相当なラッキーパンチが入り、かつ終盤で時間が10分以上残っていなければ苦しい、すなわちponanzaの全勝はほぼ盤石に思われた。だが開発者の山本氏からするとヒヤヒヤものだったようで、氏はTwitterで連日のように不安を吐露していた。
そして4日目の最終日。この日もponanzaは絶好調(コンピュータだから当たり前だが)で、あぶなげなく勝ち続ける。初日に健闘した初心者氏も再挑戦で期待されたがあえなく撃沈。しかし、最後に見せ場がやってきた。元奨励会三段の一瀬浩司氏の対局だ。実は一瀬氏は初日にも善戦しており、ワンチャンあるとすればここしかないというところ。
はたして、その将棋はひねり飛車から挑戦者優勢と見られる展開に。モニターに映るニコ生のコメントは一気に盛り上がり、収録会場ではヒソヒソと「これは……」「あるかも」といった声が漏れ聞こえてくる。一方で山本氏はponanza劣勢の局面を見てTwitterに悲痛なつぶやきを投稿。筆者の素人目に見ても、イベントの全対局のなかで最も勝ちがありそうな局面に見えた。
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