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プロ棋士が解説「第2回将棋電王戦」初戦で人間が勝てた理由

阿部光瑠四段

阿部光瑠四段

 3月23日、将棋のプロ棋士5人と5つのコンピュータ将棋ソフトが対決する『第2回 将棋電王戦』が、東京・千駄ヶ谷の将棋会館でついに開幕した。先鋒戦となる第1局は、若干18歳の新鋭・阿部光瑠(こうる)四段と、昨年の『世界コンピュータ将棋選手権』で5位(42チーム中)を獲得した「習甦(しゅうそ)」の対決だ。  2012年1月の『第1回 将棋電王戦』では、同年12月に亡くなった米長邦雄永世棋聖が「ボンクラーズ」に敗れ、コンピュータ将棋ソフトの棋力の向上が大きな話題となった。「現役」のプロ棋士は、対コンピュータの公式戦で無敗とはいえ、将棋ファンの間でも「すでにコンピュータはプロ棋士を超えているのではないか」とささやかれるなかでの対局である。  プロ棋士側の先鋒となった阿部光瑠四段は、16歳5か月という超スピードでプロ入りした将棋界期待の新鋭だ。青森訛りで「(ニコニコ動画で)いろいろ見ている」と語る姿には、まだあどけなさすら漂う18歳。しかし、ハマったときは名人クラスのトップ棋士をもなぎ倒す不思議な潜在能力を秘めた大物だけに、いったいどんな作戦を用意しているのかーー。  という注目のなか、朝10時の対局開始早々に飛び出したのは「先手番一手損角換わり」。通常は後手番で使われる作戦で、せっかく先手になった一手分の得を捨てるような指し方で、プロ的には違和感があるとされる。とはいえ、明確に不利になるわけではなく、また阿部光瑠四段はプロ入り前からこの作戦をよく使っていたらしい。コンピュータの定跡データからも外れるので、プロ棋士が多数つめかけていた将棋会館の控え室では、ちょっと小首をかしげながらも「アリなんじゃないか?」という空気。  先手の阿部光瑠四段は、さらに17手目に▲9五歩と端の歩を突き越す。何気ない手だが、これもプロ的には何かを感じるところらしい。 「端が広くなって終盤で王様が逃げやすくなるんですけど、直近で明らかな得ではないからなのか、コンピュータは邪魔してこないことが多いんです。あと普通こういう形だと▲6六歩を入れていないのも気になる。なにか狙ってる感じがします。もしかしたら△6五桂をやらせるために、わざとやっているのかも?」(遠山雄亮五段)  午前中の対局は、予想より時間をかける「習甦」に対して、サクサクと手を進める阿部光瑠四段という展開。ちょっと変わった手を指してコンピュータに考えさせるという意味でも、終盤の読みが速く正確なコンピュータに対して時間を残すという意味でも、事前の計画通りなのではないか。
佐藤紳哉六段

ニコ生の控え室レポートでは、少し前にネットで話題になった佐藤紳哉六段(写真右)の決めゼリフ「強いよね〜」も飛び出し、コメントは弾幕状態に。

 昼食休憩に入り、ニコニコ生放送のコメントやTwitterなどの将棋ファンの間では、阿部光瑠四段の昼食が話題に。「うな重(松)」と「まぐろづくし(特上)」の1人で2人前の注文は、関係者によると東京将棋会館で注文された出前の最高額を更新したらしい。通常、昼食は対局者の自前だが、この日は主催のドワンゴ持ちだからなのか。こんなところでも謎の大物ぶりをちゃっかり発揮していた。 「まったく問題ありません! この前のイベントで300万円持っていかれてますし(笑)」(ニコ生運営スタッフ)  午後に入ってすぐ、ついに局面が大きく動き出す。「習甦」が、まさに控え室で予想されていた「△6五桂」を指してきたのだ。<取材・文・撮影/坂本寛> ⇒【後編】プロ棋士の周到な罠にハマったコンピュータ
https://nikkan-spa.jp/409912
△6五桂

34手目△6五桂の局面図:日本将棋連盟モバイル(http://www.shogi.or.jp/mobile/)より

◆阿部光瑠四段 vs 習甦 PV – ニコニコ動画:Q http://www.nicovideo.jp/watch/1363350674 ◆ 第2回将棋電王戦 特設ページ http://ex.nicovideo.jp/denousen2013/
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