“AVの帝王”村西とおるを15年間撮り続けたドキュメンタリー映画がついに完成【後編】
「中野から世界へ」を合言葉に、11/28~30まで中野コングレススクエアで「第1回・新人監督映画祭」が開催された。映画祭のハイライト「特別招聘作品」「ある視点」部門で、爆乳AV監督としてその名を轟かす、高槻彰監督(54歳)の初めての一般作となる『ナイスですね 村西とおる』のワールドプレミア上映がされた。
“新人”高槻彰監督が被写体に選んだのはアダルトビデオの帝王・村西とおる(66歳)。’70年代、英会話や百科事典の悪徳キャッチセールスで記録的売り上げを叩き出し、’80年代にはビニ本・裏本の制作販売でウラ業界の会長に上り詰め、’86年「顔面シャワー」「駅弁ファック」「黒木香」でニッポンのAV界を席巻した偉大なAV監督を、15年もの長い間追い続けた「ドキュメンタリー作品」だ。
◆「99%冗談みたいなドキュメンタリー」
村西とおる氏いわく「99%冗談みたいで、常軌を逸したドキュメンタリー」という同作品は、村西とおる監督の栄枯盛衰の「枯」と「衰」にスポットを当てたもの。事業に失敗し7犯の前科と、50億もの莫大な借金を抱え、金策に奔走する様子や、“とある理由”でAV業界と実生活の折り合いに悩み、タオル販売、立ち食いそば店経営など商売替えをし、蟄居する横顔。一時は死線をさまよった難病による闘病生活。そこにはカリスマと呼ばれた男の“普通の素顔”と“生き様”捉えた作品だ。
本邦初公開となった新人映画祭での「ワールドプレミア」直前に高槻彰監督と、主演男優である村西とおる氏に話を聞いた。
⇒【前編】「日本の映画史上、前代未聞の撮影期間の長さ」はコチラ
◆人様のケツの穴を見たいと思ったら、自分の穴を見せろ
村西:人を感動させようと思ったらやはり落差を見せなければいけないんですよ。落差とは何か。孫正義の1日24時間に密着しても人は感動しない。人のケツメドの穴を見ようと思ったら、自分のケツメドの穴を見せろということですよ。
高槻:……。
村西:日本の映画史上においても15年もの間、人を追いかけた映像なんか無いんですから。そういう意味で、日本の若い映像作家にぜひこの作品を見てもらいたい。経済効率性に振り回されるのが映像の世界かもしれませんが、同時に人生を賭けて映像を撮ることができるという“特権”を持っているのが映像作家です。地球の裏側に行ったり、とんでもない瞬間を撮らなければ人は感動しないということはない。そういった意味で、この作品は日本の映像作品業界に殴りこみをかけたと言ってもいいのかもしれません。同時にAV業界の人間の根性も見せつけたとも思っています。我々の世界はややもすると、「その日暮らしで、ハメ撮りして、ハイ終わり!」という業界だと思われているかもしれないけど、その魂の裏には「かつて人類が見たことがない映像を撮ってやろう!」という意地があるんです。と……俺が一生懸命しゃべっているのに何やってるんだ!
高槻:す、すいません……(慌ててスマホをしまう)
村西:俺がいつも一生懸命しゃべっているのに、(映画宣伝の)ツイッターやってるんですよ! 口下手だから映像監督をやっているんですね、高槻さんは。口が上手かったら私のように「竿師」をやっているはずですよ。だから私が代わりにしゃべっているんです。
◆撮影が中断した“理由”とピリオドを打とうと思った瞬間
――では高槻監督に伺いますが、映画をつくる上で一番苦労した点は?
高槻:撮影ができなかった時期ですね。映画を見ていただくとわかるんですが、“とある理由”があって村西監督の撮影ができなかった時期が1~2年あったんです。その時期が辛かった。
――さきほど「終わりを決めずに撮っていった」と言いましたが、ピリオドを打とうと思った瞬間があったわけですね?
高槻:ありました。実は、撮れなくなった時期に、「もうこのへんでいいや」とまとめたこともあったんですが、どうもしっくり来なかった。実は、完成版は2つくらいあるんです。その後村西さんと再会して、お話を聞いていて「あ、こういうことで(村西さんを)撮れなかったんだ」と腑に落ちた瞬間がありました。それが分かった瞬間、この映画にピリオドを打とうと思ったんです。
村西:映像作家は高槻監督だから私は一切口出しをしていないんです。彼がどういうふうに腑に落ちたかはわからないけれども、「この辺で潮時かな」というとこかもしれなかったですよ。これ以上お互いとんでもないトライアスロンをしていても仕方がない。これでひとまず世間の評価を得る、と思決心したんでしょう。世間様の評価を得たうえで、第2ステージ(続編)を撮るということもあるかもしれないけれど……。
――公開は来年の夏以降、外国の映画祭にも出品するということですが。
高槻:そのつもりでいます。いろいろなところからお話は来ていますが、今日が本当のワールドプレビューなんです。
村西:まだ誰にも映画を見せていないですからね。私も今日初めてみるんだから。この前に完成版のDVDを渡されたんだけども、「いい!」って断ったの。私の性格だから、ああでもないこうでもないと監督に注文をつけるでしょう。まぁ今日見たところで、注文をつけるだろうけど(笑)温和な顔してこの人は信念を曲げない人だからムダでしょうけどね。映画祭は、世界の出られる映画祭、総なめ。出られる所すべてに出ますよ。日本のアダルトビデオというか、日本人の生き様を見せる意味でもあるんです!
●『ナイスですね 村西とおる』
監督・撮影・編集:高槻彰
出演:村西とおる(草野博美)、黒木香、乃木真梨子、沙羅樹、小鳩美愛、清水大敬、本橋信宏
制作:シネマユニットガス(R18指定/110分/デジタル/カラー)
※劇場上映は’15年夏を予定
【村西とおる】
1948年、福島県いわき市生まれ(66歳)。AV監督。ご存知アダルトビデオ界の帝王。日陰の存在であったアダルトビデオをテレビに出るまでにメジャーにした男。黒木香や松坂季実子等を発掘。「ナイスですね」含む独特のトークや「駅弁ファック」「顔面シャワー」など現在まで受け継がれるAVの文脈を発明した。一方で多大な借金に現在まで苦しむ。前科7犯。村西とおるツイッター(@Muranishi_Toru)で独特の舌鋒を展開中
【高槻 彰】
1960年生まれ(54歳)。AV監督、映画監督。80年代のAV黎明期からアバンギャルドで作家性の強い作品を多数制作。『ビデオスキャンダル』でデビュー。風営法改正直前の新宿を撮影し、風俗ギャルをAVにスカウト(引き抜き)する内容でヤクザと揉める。『同棲11日間』ではAV女優と同棲しての期間限定疑似恋愛を撮影記録。 ビデオザワールド誌のベスト年間1位を獲得した。 ‘05年ころ制作会社「シネマユニットガス」を設立。Nカップなど、高槻自身が命名した「爆乳」に拘ったAVを多数発表する。白石晃士監督作品『オカルト』(’09)では俳優として怪演。元社員には『監督失格』(’11年)を監督した平野勝之がいる。ツイッターは(@gastakatsuki)
<取材・文・撮影/遠藤修哉(本誌)>
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