更新日:2017年11月27日 21:20
カーライフ

誰も住んでいない秘境の駅が大混雑!? 6つの秘境駅をつなぐ飯田線秘境駅号

長野県飯田市と愛知県豊橋市を南北に結ぶJR飯田線。読者の多くが乗ったことがない路線だけに、ここを乗車券完売の列車が走っていることは、ご存じないでしょう。その名も「飯田線秘境駅号」。6つの秘境駅に停車する秘境駅愛好家垂涎のマニアック・トレインです。が、実際に乗ってみたところ……。ぶらり途中下車してきました 飯田線秘境駅号MJブロンディ=文 Text by Shimizu Souichi

誰も住んでない誰も利用しない大赤字路線の飯田線秘境駅号が大ブーム!?

 天竜川のほとり、森の中に打ち捨てられたダイハツ・ミゼットの残骸。周囲に人家はゼロ、廃屋となった製茶工場があるのみ。そこから続く道は人が歩くのがやっとで、それも先で行き止まり。もちろんクルマは通れない。ここから脱出する方法は、鉄道に乗るしかない……。つーかどうしてそんなところに駅があるんスか!?  秘境駅とは、人家も道もロクになく、鉄道でしか行けないような秘境にある駅のこと。それがブームだという。首都圏からもっとも近い秘境駅は、大井川鉄道とJR飯田線にある。なかでも飯田線には6つも秘境駅が集中しておりまして、写真の風景は「全国秘境駅ランキング第3位」に輝く小和田(こわだ)駅のものであります。 飯田線秘境駅号 クルマに関わる者が抱く疑問は、なぜそういう駅が残っているのかという点に尽きる。鉄道の専門家に聞いてみました。 「鉄道の駅というのは一種の既得権益なので、廃止には必ず地元から反対が出ます。鉄道でしか行けない駅ともなれば、駅を廃止すれば行く方法がなくなるというのもあるかと思います」(『乗り物ニュース』編集長・恵知仁氏)
道は廃道になった!

秘境駅は存続したが、秘境でクルマは廃車、道は廃道になった!

 んなこと言ったって誰も住んでないし、乗降客ゼロなんでしょ!? 「でもハイキング客はいるかもしれません(笑)」(恵氏)  いや~いないでしょ。行くのは鉄道マニアだけ!と思いつつ、飯田線を春・秋走っている臨時急行「飯田線秘境駅号」に乗ってみました。6つの秘境駅すべてに停車してその風情を満喫させてくれるという、実にステキな列車です。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=998828
秘境駅ブーム

秘境駅ブームはマジかよ!?というくらい、すごかった!!飯田線の各駅停車は、山間部では昼間は2~3時間に1本になるので、6つの秘境駅すべてに6分から20分ほど停車してくれる秘境駅号は、手軽に秘境駅を満喫できる超スグレモノ。

 乗って度肝を抜かれた。乗客には鉄道マニアもチラホラいたが(見た目ですぐわかる)、大部分は老人の団体客で3両編成の列車は満員! 秘境駅に停車するたびに約170名の乗客全員が降りて6分から20分ほど駅周辺を観光する。その間、秘境駅はラッシュ状態! 全然秘境じゃないじゃん! 今や秘境駅は貴重な観光資源となっているのでありました。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=998832  あまりの混雑に辟易して小和田駅で秘境駅号を降り、次の各駅停車を待つ。列車が出発すると、そこは静寂のみが支配する山深い秘境に……。廃屋に残された電気釜や廃車のミゼットが心を打つ。 「駅の廃止は、ないことはないです。北海道の上白滝駅は、通学に使っている生徒が1人いましたが、卒業に伴って来年3月で廃止されることになりました」(恵氏)  1人のための駅かあ~。鉄道ってすごい! まあ無人駅ならそんなに維持費はかからないのかも。それより問題は路線そのものの赤字か。 「JRは新幹線や他事業の収益などで赤字路線の穴を埋めているので、国鉄分割民営化以降、廃線はあまりありません。JR北海道だけはついに耐えきれなくなりつつありますが、飯田線のあるJR東海には東海道新幹線がありますから」(恵氏)  飯田線は、全JR路線中収支ワースト3位という試算もある超ローカル線ながら、廃線の可能性はまずないとのこと。もちろん6つの秘境駅が廃止される心配もない。それどころか史跡としての価値が高まりつつある。風情ある駅舎ともども、あのミゼットが文化財に指定される日が来るのかも!?  秘境駅から豊橋方面へ1時間半ほど乗ると、単線の飯田線の上を巨大な橋梁がまたいでいる。来年2月の開通に向けて建設中の新東名高速道路だ。山や谷や川をものともぜず、最小の曲率と勾配で突き抜けるその姿はまるで怪獣。飯田線がアリンコに思えました。 ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=998838  飯田線は、東海道新幹線の収益に守られて生き延びている一種の弱者なわけですが、新東名の陰にも、断面交通量で1日に1000台くらいっきゃクルマが通らないガラガラ高速があるわけでして(新東名は約5万台/日)、そんな路線のテナントがすべて撤退したPAが、「秘境PA」として脚光を浴びる……なんてことはないよな。 【結論】 秘境に人がワンサカの風景は大変異様で笑うしかありませんでした! それと同じくらい異様でつい笑っちゃったのが、ド田舎を貫く新東名の巨大ぶり。この世は強者と弱者が助け合って生きて行くべきなのですね。涙
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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