更新日:2017年11月27日 21:20
カーライフ

欧州で乗った“不正”ゴルフ・ディーゼルは燃費抜群。馬のように俊敏で牛のように力強かった

VWのディーゼルエンジン搭載車の排ガス不正が、世界的問題になっているのは、ご存じのとおり(日本未導入)。トヨタを抜いて世界一になったVWのまさかのインチキ発覚に、株式市場もズッコケる大スキャンダルに発展しました。まだ全容は解明されていませんが、せっかく盛り上がってきたクリーン・ディーゼルの未来は真っ暗かもしれません…… ゴルフGTEMJブロンディ=文 Text by Shimizu Souichi 池之平昌信=写真 Photographs by Ikenohira Masanobu ◆インチキしていたゴルフ・ディーゼルは不倫体験のようにすばらしかった!  世界の自動車業界を激震させたVWスキャンダル。不正ソフトを搭載したVW車は日本には1台も正規輸入されていないので、ボンクラ読者諸君には完全に対岸の火事でしょうが、実はワタクシ、昨年イタリアに行った際、不正ソフトを積んだゴルフ・ディーゼルのレンタカーに乗りました!  で、どうだったか?  もんのすごく良かったです。  こう書くと不倫体験のようですが、なにより驚くべきはエンジンのレスポンスが抜群で、ガソリン車みたいに軽やかに回ることだった。
ゴルフバリアント1.6TDI

昨年イタリアで乗ったレンタカーのゴルフバリアント1.6TDI。インチキ対策として、2リッターディーゼル車はソフトの書き換えでなんとかなるが、1.6リッター車は部品交換も必要とのこと

 ディーゼルってのは本来、力持ちだけど鈍い、牛みたいな特性のはずなのに、ゴルフのディーゼルは馬のように俊敏で、それでいて牛のように力強かった! 燃費も抜群。「VWのディーゼル技術はこんなに進んでるのかぁ!」と衝撃を受けました。  実はマツダの“クリーン・ディーゼル生みの親”人見光夫マツダ常務も、アメリカでVWのインチキ・ディーゼルに試乗し、「こんなに元気に走るんじゃ、ウチのはまだアメリカには出せないな」と判断したという。なぜVWのインチキ・ディーゼルがそんなに元気だったのか?

衝撃のすばらしさ!でもインチキでした

 これは推測だが、実走行ではEGR(排ガス還元装置)の量を減らしていたのではないか? それだけで断然活発なエンジンになり、そのぶんNOxがドバッと出る。なんのことやらチンプンカンプンでしょうが、とにかく我らがマツダとしては他人事ではない。なんせ、せっかく独自のクリーン・ディーゼル技術を開発したのに、VWのおかげでディーゼルそのものの立場が悪くなっちまったんだから!  今後、世界各国でディーゼルの排ガス規制が大幅に厳しくなれば、当然コストは上がる。そうなりゃディーゼルそのものの競争力が落ちる。マツダだって例外じゃない。まるで連帯責任である。  当のVWは、ディーゼルを捨て、電動化技術のほうに注力する方針だという。その中心になるのがプラグイン・ハイブリッド(PHEV)、つまり電気自動車としても走れる外部充電可能なハイブリッドカーだ。それがこのゴルフGTEなのだ! ⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=980178
ゴルフGTE

1.4リッターのガソリンエンジン(150馬力)にモーター(109馬力)を組み合わせたゴルフGTEは超パワフル。

 実際走って見ると、非常にパワフルで燃費もイイ。高速巡航での実燃費はリッター30㎞、カタログ最高速は時速215㎞。プリウスのヘナチョコな加速とはまるで違う。日本ではともかくアウトバーンではプリウスじゃダメなのだ!  ゴルフGTEがなんでこんなに速いかと言うと、単純にエンジンもモーターも強力だから。しかもバッテリーだけで約50㎞も走行できる。欧州の燃費基準ではプラグイン・ハイブリッドはものすごく有利で、ゴルフGTEのあっちでのカタログ燃費は、日本風に言うとリッター約70㎞! 新型プリウスのリッター40㎞なんざ吹っ飛ぶぜ! VWとしては、ディーゼルの代わりにこれが売れれば、今後猛烈に厳しくなるEUの燃費規制もクリアできて万々歳。逆にディーゼルへの依存度が高いうえにこんなの作れないプジョーあたりは大ピンチ。VWの転んでもただでは起きない戦略恐るべし!  が、そううまくはいかないだろう。ゴルフGTEは値段がすんごく高い。日本では499万円もする。ドイツでも約500万円。こんなもんがバカバカ売れるわけがない。
ゴルフGTE

チャージモードでは走行しながら充電もOK。せめて300万円ならな~

 ゴルフ・ディーゼルなら300万円から350万円(本国価格)。断然安いし加速の良さもGTEに負けない。さしものVWも、同じ価格で作ろうと思ったら、プリウスに毛の生えたヘナチョコ君になるだろう。高けりゃなんでもできるってことだ。  これらはすべて海の向こうの話で、日本国内とはあまり関係ありませんが、欧州での「今後はプラグイン・ハイブリッドが主流になる」という言説は、インチキではないだろうか? だって、充電する電気は発電所で作るんだから! 今や高効率の自動車エンジンと火力発電所のエネルギー効率の差は2~3割しかない。優遇のしすぎは不条理なのだ。 【結論】 プラグイン・ハイブリッドは有力な環境技術の1つですが、それほどエコではない割に値段が高すぎるので、まだ脇役のはず。ディーゼル含め、エンジンの時代があと20~30年は続くと私は見ています
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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