カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第29講 ・仕組まれたバブル」

インフレハイパーインフレはなぜ起きた? バブルは繰り返すのか? 戦争は儲かるのか? 私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す! 著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                   

南海会社


 17世紀末、イギリスは新大陸の植民地争奪戦争を本格化させ、フランスと激しく戦いました。戦費調達で財政状況が悪化し、膨大な赤字国債の発行が続きました。政府は国債の利払いや召還に追われ、デフォルトの危機に直面していました。この危機を乗り切るため、ある陰謀が画策されます。

 イギリス政府は1711年、南海会社(The South Sea Company)という特権会社を設立します。イギリスは新大陸の植民地争奪戦を有利に戦い、1713年にユトレヒト条約が結ばれるとイギリスはスペイン領西インドへの奴隷貿易独占権(アシエント)を獲得します。

 政府の後押しを受けた南海会社は株券を積極的に発行・販売しますが、思うように売れず、資金は集まりませんでした。南海会社の資金をあてにしていた政府の目論見は外れました。

 独占交易権(アシエント)を持つ南海会社の株には買いが殺到し、多額の資金が集まるだろうと見込まれていましたが、南海会社のアシエントは年間4800人の奴隷と船1隻分の商品(約500トン)という限定的なもので、投資家はこれだけでは利益を上げられないと見抜いていました。

 また、1718年、イギリスはスペインとの間で戦争(四カ国同盟戦争)をはじめ、スペインとの奴隷貿易ができなくなり、アシエントは事実上、失効します。

デット・エクイティ・スワップ


 焦った政府は計画を練り直し、新たに、南海会社に対し、宝くじの発行を認める特別措置を取ります。この手法は大当たりし、宝くじは一般市民に飛ぶように売れ、南海会社は莫大な収益を得ます。政府や南海会社は宝くじ事業の成功を喧伝して回り、投資家を信用させることに努めました。

  一定の信用を得たところで、政府は国債と南海会社の株券との引き換えを提起します。提起というのは建前上のことで、半ば強制でした。政府は財政難で、国債の召還ができないため、南海会社の株券と国債を引き換えて欲しいと申し出たのです。事実上のデフォルト(破綻)宣言でした。

図1  南海会社のデット・エクイティ・スワップ

図1 南海会社のデット・エクイティ・スワップ

もちろん、国債保有者は政府を批判しましたが、デフォルトで国債が紙屑になり、何も得られないより、南海会社の株券を取得する方が良いと考え、政府の半強制的な提起に従いました。

 国債と南海株の交換は負債(Debt)と資本(Equity)を交換(Swap)するデット・エクイティ・スワップでした。この交換には、巧妙な仕掛けがありました。交換は株券の時価取引で応じられたのです。

 例えば、国債1枚が200ポンドであった場合、南海会社の株券1枚が額面で100ポンドであっても、市場における時価価格が200ポンドであれば、国債1枚と株券1枚が交換されました。仮に、南海株式株が400ポンドに値上がりすれば、国債2枚と株券1枚との交換になり、国債保有者が損をします。

株価急騰


 当時、宝くじ事業で成功していた南海株の値上がりが見込まれており、損をしたくなければ、早急に国債と株券の交換に応じなければならない状況でした。国債保有者は南海株との交換に押し寄せ、それが株買いと同じ効果となり、1920年、南海株は図2のように値上がりしはじめました。

 内外の投資家がこの機会を逃さず、南海株を大量に買い、株価はさらに上がります。これに色めき立った一般市民までもが投機に熱中しはじめ、南海株の買いに殺到します。買いが買いを呼び、相乗的に南海株は急騰します。

図2 南海会社株価

図2 南海会社株価

南海株急騰によって、南海会社は莫大な資金を集めました。南海会社はこの資金で、事実上支払いのない召還期限間近の国債の欠損を充当し、さらに余った資金で政府の新規発行の赤字国債を引き受けます(図1参照)。

 こうして、政府は借金返済から逃れることに成功し、さらに、南海会社に赤字国債を引き受けさせて、財政の窮地から脱したのです。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。著書に『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)。

世界史は99%、経済でつくられる

歴史を「カネ=富」の観点から捉えた、実践的な世界史の通史。





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