カネで読み解くビジネスマンのための歴史講座「第44講・オスマン帝国のグローバル・リンケージ・システム③」

スレイマン1世のトゥグラ(花押)

スレイマン1世のトゥグラ(花押)

ハイパーインフレはなぜ起きた?バブルは繰り返すのか?戦争は儲かるのか?私たちが学生時代の時に歴史を学ぶ際、歴史をカネと結び付けて考えることはほとんどありませんでした。しかし、「世の中はカネで動く」という原理は今も昔も変わりません。歴史をカネという視点で捉え直す!著作家の宇山卓栄氏がわかりやすく、解説します。                   


巧みな共存政策


 オスマン帝国は地中海交易とインド洋交易の利権を握り、巨大な富を蓄積しながら、拡大を続けます。16世紀、バルカン半島から、ハンガリーに進出し、北アフリカでは、アルジェリア、リビア、チュニジアを征服します。

 広大な領域を有したオスマン帝国は、様々な民族・宗教に対し、融和政策をとります。大口の取引先であるヨーロッパ・キリスト教圏に対しては、特にそうでした。

 オスマン帝国はバルカン半島の住民であるセルビア人・ブルガリア人・ギリシア人・ルーマニア人など、キリスト教徒の白人ヨーロッパ人の子を強制的に連行し、イスラム教に改宗させて、英才教育を施します。成人した時、優秀な者を官僚・軍人に積極登用しました。

 キリスト教徒の親たちは我が子がオスマン帝国に連行されるのを嘆きながらも、将来、上流支配層として帝国に登用されることを期待して、協力しました。

 また、人材を出したキリスト教徒の子弟の出身共同体は、免税にされるなどの恩恵を受けました。こうして、ヨーロッパ白人の中から皇帝直属の有能な官僚が生まれ、同勢力に配慮した細やかな政策が遂行されました。

 また、軍の指揮権の多くを握っていた皇帝直属の部隊はイェニチェリと呼ばれ、やはり、英才教育を施されたキリスト教徒の白人の有能な者の中から選ばれました。

 軍の統率権を握る立場の者をイスラム教徒の子弟から選ばず、敢えてキリスト教徒の子弟から選んだのは、イスラム豪族の台頭を抑え、キリスト教勢力を懐柔し、両教徒の勢力の均衡の上に、オスマン帝国の権力を強化していこうとしたためです。

 イェニチェリは妻帯禁止とされ、その子孫たちによる世襲を防ぎました。軍の統率権が世襲化されると腐敗や内乱の原因となるからです。人材の流動性を確保し、皇帝が常に人事任命権を掌握していました。

グローバル・リンケージ・システム


 オスマン帝国はこうした多民族の共存政策によって、地中海の諸地域を繋ぐグローバル・リンケージ(国際連携)の役割を担い、同地域の内需を拡大させ、経済を牽引していきました。

 オスマン帝国は領域内で、統一通貨を発行し、流通や金融決裁を円滑化し、また、帝国法によって、各地のマーケットのルールの共通化を図ります。

 オスマン帝国の単一通貨、単一市場は領域内に大きな経済的な恩恵をもたらし、一部の周辺領域は進んで、オスマン帝国へ帰属し、単一市場に編入されることを望みました。

 また、ヨーロッパ諸国の高い輸入関税率に比べ、オスマン帝国は約5%程度の低い税率に抑え、貿易統制をほとんどおこないませんでした。

 そのため、ヨーロッパや中東、アジアの諸地域の輸入物資がオスマン帝国に大量に集まり、物流取引の決済地となりました。

 オスマン帝国はヨーロッパとアジアの東西を繋ぐ、偉大なる仲介者であり、その地理上の優位性を最大限に発揮できるような優れた制度設計を有する世界帝国であったのです。

【宇山卓栄(うやま・たくえい)】
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。予備校の世界史講師出身。現在は著作家、個人投資家。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで活躍、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説することに定評がある。著書は『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)ほか。




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