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日本人が恐れおののくチェルノブイリの虚像を暴く!
2018年10月26日
日本人が恐れおののくチェルノブイリの虚像を暴く!
グレンコ・アンドリー
<文/グレンコ・アンドリー『ウクライナ人だから気づいた日本の危機』連載第6回>
爆発した4号機に100メートルまで接近
前回
、チェルノブイリ立入禁止区域見学ツアーに参加したことを述べたが、今回はいよいよチェルノブイリ原子力発電所の見学について述べたい。
新安全閉じ込め構造物に覆われた四号機
見学する時は先ずは遠くからいくつかの写真を撮った後、発電所の職員食堂で昼ご飯を食べてから、4号機から100メートルぐらい離れた展望場に行った。そこでガイドの説明を受けたり、写真を撮ったりしていた。 私が参加した1日ツアーでは時間がなかったため、残念ながら発電所の中には入らなかったが、2日ツアーの場合は5号機の建物に入れる。また、もし旅行会社に一般ツアーではなく、プライベートツアーを頼んだら、最も面白い3号機の建物に入れる。4号機の建物に入ったら確実に死ぬのでもちろん入れないが、なぜ3号機は一番面白いかというと、それは4号機とそっくりだからだ。建設の時、3号機と4号機は同時に建設されたため、双子のようにそっくりだという。 ガイドから聞いた話で、まずは1、2号機、次に3、4号機が建設された。5号機も建設されたのだが、その稼働は1986年秋に予定され、事故の影響で中止された。チェルノブイリ原子力発電所では全部で12号機を建設する予定だった。凄まじい規模だ。もし完成されれば、ウクライナは電気が溢れていただろう。 ガイドの話によると事故の理由は、一つは構造上の欠陥と、もう一つは事故の直接の引き金となった、あの時に行われた非常用電流の実験だそうだ。しかし、ソ連政府は構造上の欠陥を隠蔽しようとしたので、職員の操作ミスということにした。その職員は被爆で死んだので、反論できなかった。
原発事故の後も原発は稼働し続けていた
事故の後、5号機の稼働は中止になったものの、1、2、3号機は無事に稼働し続け、そして2000年の秋に稼働停止となった。ガイドから聞いた話では、本当はチェルノブイリ原発を停止する必要はなく、現在まで稼働できたということだ。 停止した理由はヨーロッパからの圧力だった。ヨーロッパは理屈ではなく、思い込みや恐怖心で動いているので、とにかくチェルノブイリ原発を停止するようにと、ずっとウクライナに圧力をかけていた。そして当時のウクライナ政府は弱腰で国益を考えていなかったので、ヨーロッパの圧力に屈して、チェルノブイリ原発を停止してしまった。 このため、ウクライナ国家予算は毎年、7億ドルの純利益の源を失ってしまった。GDPは約1000憶ドルしかないウクライナにとっては非常に大きい損である。ヨーロッパはその代わりに、ウクライナの別の原子力発電所で新しい号機を建設するために資金を提供すると約束したが、一部しか支払われず、ウクライナは新しい号機を建設できなかった。 チェルノブイリ原発が停止されてから、ウクライナで稼働中の原発は4箇所あって、合わせて16号機が稼働している。しかし、ウクライナの需要には全然足りないので、残念ながら環境に悪く、お金のかかる火力発電に頼らざるを得ない状況である。 現在、チェルノブイリ原発で2500人の職員が働いている。稼働していた頃は1万人だった。その職員の多くは、廃墟となったプリピャチ市の代わりに建てられたスラヴティッチ市に住んでいる。スラヴティッチ市とチェルノブイリ原発は直接の鉄道線につながっているので、その職員は列車でチェルノブイリ原発まで通勤している。 爆発した4号機は新安全閉じ込め構造物に覆われている。構造物の建設費はヨーロッパが作った財団から支給されていた。建設費は約20億ユーロであった。
チェルノブイリについての日本人の誤解
日本では、チェルノブイリの構造物やこれからの展望について、いくつかの誤解が出回っているのでそれを解いておこう。
1.4号機の中は丸ごとコンクリートで埋められた。 2.今の構造物がダメになった後、また新しい構造物を作らなければならない。 3.この場所は永遠にこの状態で放置される。
実際は、
1.旧閉じ込め建造物は確かにコンクリートで作られていたが、その中はコンクリートではなく、爆発した4号機の跡はそのまま放置してある。 2.新閉じ込め構造物の上に新しい構造物を作る予定はない。 3.これは面白い。実はそのまま放置する予定ではないのだ。
3について詳しく述べると、新安全閉じ込め構造物は旧閉じ込め建造物よりかなり大きいので、新旧構造物の間に空間がある。その空間に、遠隔操作のロボットが置いてある(多分新構造物の天井からぶら下がっていると思うが)。このロボットは将来、旧閉じ込め建造物を解体する予定で、その後、爆発した4号機の壁の跡を解体し、最後に原子炉の跡を除染し、解体する。ただ、まだ除染の技術はあのすさまじい放射線量を除染するレベルに発達していない。だから将来、人類の除染技術が追い付いたら、4号機の跡を除染し、完全に解体されるそうだ。 これは私も知らずに、非常に驚いた。そして、除染作業が完全に終わったら新閉じ込め構造物も解体して、あの場所を平地にする予定とのことである。100年先の話かもしれないが、永遠にそのまま放置するということは誤解である。
モスクワより物資が充実していたチェルノブイリ原発の町
チェルノブイリ立入禁止区域見学の最後の地点だったのは、完全廃墟となったプリピャチ市であった。約3時間、廃墟を回っていた。 市内に入る前にいわゆる「赤い森」の近くに行った。事故の後、大量汚染のため、プリピャチ市の近くの森の木がオレンジ色っぽくなったのでこのように名付けられた。大量に汚染された木が伐採されて埋められたので、今の木はもう黄色くないが、名前は残った。
「赤い森」の看板
その近くに来て、放射線量が基準値の100倍のところで写真を撮った。すぐそばに1000倍の所もあったが、ガイドは行かせてくれなかった(笑)。その場所の雪は温かいらしい。
放射線量が基準値の100倍の場所
プリピャチ市はチェルノブイリ原発の建設と同時に建てられた町である。町の創立は1970年。この町はチェルノブイリ原発の職員やその家族のために建てられた。事故の時点で人口が5万人だった。最初から計画的に建てられた町なので通りは広く、直線の形をしている。全ての公共インフラが歩ける距離にあった。商店、レストラン、郵便局、ホテル、映画館、学校、遊園地、プールなど、すべてが揃っていた。 ソ連政府がプリピャチ市をモデル都市にしようとしたので、なるべく全ての公共サービスや物資が行き届いているようにしたらしい。ソ連時代とは、個人消費の物資が絶望的に足りなかった時代である。肉や食器、服、靴、電化製品など、手に入れるのは結構大変だった。また、お湯が出るマンションは大都市の一部だけであった。しかしプリピャチ市はそんなことがなくて、すべてが充実していたようだ。 話によると、当時はプリピャチ市はキエフ市よりずっと物資が届いていたので、キエフ市民は大量にバスに乗って、プリピャチ市に買い物に出かけていたということだ。さらに、ソ連の首都であるモスクワからも買い溜めに来る人がいたようだ。つまり、首都のモスクワ市よりプリピャチ市の方が、物資が充実していたと言える。また原発の増設とともにプリピャチ市も拡大する計画で、1986年時点より2倍の都市になる予定だった。 事故が起きた翌日、行政がプリピャチ市民に避難命令を出した。その時、避難は一時的なものでしばらくしたら戻るというように市民が言われたので、最低限のものしか持って行かなかった。 しかし、その後、プリピャチ市に人はもう住めないということが決められ、半年後、市民が私有物を部屋から取ってくるために一時的に戻ることが許可された。 けれども、ソ連の基準からすれば豊かな生活をしていたプリピャチ市の部屋に泥棒が大量に入って、多くのものが盗まれたらしい。また避難の時にペットを連れていくことが禁止されて、後で、プリピャチ市民が飼っていた動物が全部殺処分された。理由は毛に放射線が溜まってしまうということだった。 その後、プリピャチ市は完全廃墟となった。一切の定住が禁止されている。廃墟には許可制で見学が認められているが、不法侵入者が多いとのことだ。お金になる物資はもう残っていないので、泥棒ではなく、スリルが目的の冒険家が大量に来ている。やはり、廃墟となった都市には何かの魅力があるようだ。プリピャチ市を含む立入禁止区域への不法侵入者は、ウクライナ社会の冗談のネタの一つ。このネタでPCゲームもある。
廃墟となった学校の中
またこういう場所は他にないので、ウクライナの特殊部隊の訓練の場所としても利用されている。マンションの窓ガラスに弾丸の穴があった。
【グレンコ・アンドリー】
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌
『明日への選択10月号』
(日本政策研究センター)に「日本人に考えてほしいウクライナの悲劇」が掲載。
グレンコ・アンドリー
1987年ウクライナ・キエフ生まれ。2010~11年、早稲田大学へ語学留学で初来日。2013年より京都大学へ留学、修士課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程で本居宣長について研究中。京都在住。2016年、アパ日本再興財団主催第9回「真の近現代史観」懸賞論文学生部門で「ウクライナ情勢から日本が学ぶべきこと――真の平和を築くために何が重要なのか」で優秀賞受賞。月刊情報誌
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