アフターコロナで進化する「AIによる国民監視システム」

『アフターコロナ』(連載第1回) <文/深田萌絵:ITアナリスト>

中国大手通信キャリアで「1440万回線解約」

 新型コロナウイルスの流行で、中国四大通信キャリアの回線が今年の1、2月で1440万回線ほど解約され、ネット上では「そんなに死んだのか!?」と物議を醸している。  「中国移動」は1月で前月比86.2万件減、2月で725.4万件減、「中国聯」は1月で前月比118.6万件減、「中国電訊」は1月で前月比43万件増だったが、2月は560万件減少だという。  新型コロナウイルスの中国での有症感染者数は4月20日現在8万2735人(前日比12人増)、死者は4632人(増減なし)である。だが、武漢での新型コロナウイルスによる死者は、火葬場の数と稼働率からして一桁辻褄が合わないとは思っていた。それでも、さすがに1440万人が死んだということはないと思い、某中国通信事業者にヒアリングしたところ、衝撃の話が出てきた。

中国政府が「ウイルス追跡」アプリ提供開始

 中国では携帯番号と身分証番号が紐付けられており、すべての携帯電話は国民監視システムで管理されている。そのため、一部の中国共産党幹部や富裕層は、公用には自分名義の携帯電話、隠し事用には部下や知人の身分証で契約した携帯電話を持っていたそうだ。  ところが、今回の武漢ウイルス発生で、1月頃に台湾が中国政府に「ウイルス追跡」アプリを提案したらしい。2月8日には中国国家衛生健康委員会が、「濃厚接触検出器」アプリ提供を開始している。  このアプリをインストールすると、GPS追跡機能で追い回され、音声認識機能でスマホの持ち主が「誰」であるかを判別し、「どこ」に行ったか、またBluetoothで周辺のスマホの情報を取得し、音声認識で「誰と一緒にいるか」をすべて中央政府のデータセンターに集約されてしまうのだ。  このアプリのインストールが必須になったので、別人名義でスマホを持っていても、音声認識で持ち主が違うとなれば、そのことまで中央政府に把握される仕組みになったので、「別名義で持ってても無駄だ」ということになる。  そういった背景が、スマホ回線の大量解約が発生するトリガーとなった。これが、今年1月よりも2月の通信キャリア解約数が桁違いに多くなった要因だそうだ。無論、一部は新型コロナウイルスによる死者も混ざっているだろうが、内訳は不明だ。

韓国、台湾、シンガポールも追跡アプリを導入

 その監視アプリだが、奇妙なことにこれまで競合にあったグーグルのアンドロイド系とアップルのiphoneも、スマホの持ち主に関する基本情報をBluetooth経由で相互に取得しあって政府に通報することに関して、連携しているようだ。  振り返ればこの感染者追跡アプリは、米国がスパイ企業だと指摘したファーウェイ・エコシステム内にあるアリババがいち早く発表した。武漢の市場で新型コロナが発生した直後の追跡同行の様子を過去に遡って公開している。ここから、これまでアリババアプリを利用していた人は、過去のデータも記録に残っているということが分かる。  さらには、この追跡アプリは、中国IT大手のテンセントとアリババの決済システムと連動している。  しかし、「やっぱり中国だよな」と、笑ってはいられない。韓国では行政安全部がアプリを使って、自主隔離対象者を監視し、無断で外出した際には、GPSによる追跡機能で感染者を捕まえることができる。  シンガポールも3月20日に「トレーストゥギャザー」という濃厚接触者追跡アプリを発表して、国民にインストールすることを推奨している。これも偶然か分からないが、アンドロイドだろうがiphoneだろうがBluetooth経由で近隣者の端末のIDが交換される。  台湾は、スマホが接続する基地局から位置情報のデータを取得している。隔離対象者がアプリのインストールを必要としないあたりは、国民をいつでも監視対象にすれば追跡できるということだ。  また、BBCニュースでは、基地局からだけでなく、衛星と三角測量の方式を使って位置情報を取得しているとも報道されている。

進むスマホによる国民監視

 こういったスマホによる国民監視は、アジアだけでない。欧州でも、複数の国が通信事業者に匿名化した人々の移動データの開示を求めている。  新型コロナウイルス流行で、世界各国が中国やファーウェイの望む監視システムを導入して国民の追跡を始める流れとなっているのだ。しかも、それらのデータはファーウェイの通信網を通れば、いつでも中国に渡るのだ。  何よりも筆者を驚かせたのは、「政府 携帯会社にデータ提供要請へ 感染者集団を早期発見」というNHKの報道だ。これは、Bluetoothをベースにしているようだが、体のいい中国式国民監視システムの簡易版だ。

背後に監視インフラ導入の野望を抱くファーウェイ

 ウイルスで各国が監視社会に向けてのインフラを大手を振って推進している。そして、その背後に見え隠れするのがファーウェイとそのエコシステム企業だ。マスク、医療品、防護服などを交渉材料に、救世主を装って監視インフラの導入を迫っている。  このコロナウイルス騒動に便乗した「国民管理アプリ」に関して、NSA(アメリカ国家安全保障局)が監視システムを構築していたことに警鐘を鳴らすために、ロシアに亡命したエドワード・スノーデンもこう警告を出している。  「政府がコロナウイルスに便乗して、グローバルに抑圧のためのアーキテクチャを構築している」、「他の誰かが最終的にこのデータを入手する。あなたの国では、別の国の大統領がこのデータを最終的に持つようになる」と。  そう、見落としてはならない。  米国の国民監視システム構築の「PRISM計画」に参画していたIT企業の多くが、今や中国に寝返り、ファーウェイ・エコシステムに組み込まれているということを。 【深田萌絵(ふかだ・もえ)】 ITビジネスアナリスト。Revatron株式会社代表取締役社長。本名・浅田麻衣子。早稲田大学政治経済学部卒。学生時代にファンドで財務分析のインターン、リサーチハウスの株式アナリスト、外資投資銀行勤務の後にリーマンショックで倒産危機に見舞われた企業の民事再生業務に携わった。現在はコンピューター設計、チップ・ソリューション、AI高速処理設計を国内の大手企業に提供している。最新刊は『米中AI戦争の真実』(育鵬社)。YouTubeで「WiLL Moe Channel」開局中。
米中AI戦争の真実

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