日本を救う水力発電イノベーション6

「採算性」という壁

 そもそも現状においても、「発電機の新設」を行うことで新たに電源を確保していくことが可能なダムは、全国各地に大量に存在している。  しかし、それらがそのまま「放置」されているのは、ひとえに「採算性」が確保できないからである。「非発電ダム」の場合、通常はそのダムまでの送電線は整備されていない。  だから非発電ダムで新たに発電事業を行おうとすれば、「発電機」だけでなくそれに付随して求められる新たな「放水路」や「取水設備」、さらには工事のための大規模な仮設備の設置や「送電線」の新設費用も必要となってくる。  そうなれば、コストが一気に高くなってしまい、電力ビジネスとして「採算が合わない」、という事態が生ずることになる。  こうした事情から、これまでは発電機のなかった大規模な既存ダムに発電機をつける、というタイプのダム再開発事業はやられてこなかったのである。  この問題についてどうすべきなのかと言えば、もちろん、政府による補助や支援が必要なのだが──それについてはまた後ほど、改めて述べることにしたい。

ダムの「柔軟運用」による発電・治水能力の最大化

「発電」と「治水」の双方の目的を持った多目的ダムの場合、「発電」にはその水深の何メートル分を活用し、「治水」には何メートル分を活用する、という格好で明確に線引きされているケースがほとんどだ。  しかし「洪水のリスクが高い時」には「治水」を優先し、「洪水のリスクがほとんど考えられない時」には「発電」を優先する、という運用方法を行うことができれば、既存ダムをさらに有効に活用していくことができる。  すなわち、大雨が危惧される時には、発電のための水量も含めて、より多くの水を放流しておいて(一般にこれは、事前放流と呼ばれる)ダムを空に近い状態にしておくと、より大量の雨を貯めることができ、より高い治水効果を発揮することができる。  逆に、大雨の危険性がほとんど考えられない時期には、多くの水を貯めて、発電を行うという次第である。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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