日本を救う水力発電イノベーション7

ダムの「柔軟運用」による発電・治水能力の最大化

 こうした「ダムの柔軟運用」には、さまざまな技術的課題を乗り越えながら現時点でも一部行われてはいるものの(例えば、雨季やそれ以外とで、両者の「線引き」を変える等)、その硬直性はまだまだ高い。  結果、ダムの十分な柔軟運用は行われておらず、それぞれのダムの治水能力も発電能力も、最大化されてはいないのが実状である。  そもそもこうした(洪水リスクを増やさないことを前提とした)「ダムの柔軟運用」は、追加コストがほぼ「ゼロ」の取り組みであり、求められるのは、関係者における「(頭の)柔軟性」と、複数関係者間の「合意」だけといっても過言ではない。  なお、大雨が危惧された時に「事前放流」を行った場合に、実際は雨が降らなければ、発電事業に「損害」がでることになる。  現在、こうした事前放流に伴って発電事業者に損害が生じたケースでは、治水行政者が、発電事業者に「賠償金」を支払う制度が存在しているのだが、昨今の政府の「緊縮」財政のあおりも受け、この賠償金を支払うようなケースはほとんど回避されているのが実態だ。  もちろん、事前放流が回避されている背景には、水位が回復しないことによって「渇水」等の問題が生ずることへの懸念があることも事実だが、賠償金の問題も看過されざる理由の一つとなっている。  賠償金を支払うことになるかもしれない、と危惧される場合には、それが心配で事前放流をしない、というケースが決して皆無ではないのである。 つまり、政府の過剰な緊縮的姿勢が、ダムの柔軟運用を妨げ、治水能力を縮小させ、結果、流域で洪水被害が生じるリスクを増大化させている。  トータルとしての公益を考えた時、こうした硬直的姿勢、緊縮的姿勢は大いに問題ありと指摘せざるを得ない。

「バカの壁」と「採算性の壁」

 以上、本稿では、わが国には「かさ上げ」、「逆調整池ダム」や「大規模な発電施設」の新設、さらには「柔軟運用」という、既存ダムを最大限に利用して、日本全体の水力発電を増強していく方法がさまざまに存在していることを指摘した。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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